OUTライ002_強制的に友達にする嘘
4月1日。まだ誰もいなくなっていない誕生日の夜。
ライと部屋まで手をつなぎ、部屋まで送った。
そしてトゥルーも部屋に送り、レアルは一人廊下を歩いていた。
「……たまにはこういうのも悪くはないですね」
呟きながら、明日からまた目の前に立ちはだかる破滅の未来と戦わなければいけない。
だが昨日時点でかなりの情報が集まっている。
下手に情報が揃うのを待っては、向こうに勘づかれて何かしら対策を練られるかもしれない。
はたまた、闇ギルドの修正として『やられる前にやれ』をしてくるのかもしれない。
「……でも、今日くらいは嘘の様に何も考えず寝たいですね」
そう言いながら、レアルは自分の部屋に向かった。
向かって、部屋を開けたら一瞬そこにライがいてくれた、様な気がした。
ライと触れ合っている間、鳴りやまなくて仕方なかった心臓の爆音を思い出しながら、自分の中に抱いていた仄かな感情も自覚していた。
魔術学院にいた頃は、秀才として羨ましがられ令嬢として避けられていた。
自分ではそんなつもりは無くても、腫物を触られるような毎日を余儀なくされていた。
それでもレアルはこの街が好きで仕方なく、この街を愛してやまなかった。だから頑張れた。
でも、一緒に頑張る人はやはりいてほしい。
「やっぱ、あの手紙、ちょっと恥ずかしいなぁ」
トゥルーの様な妹みたいな存在もそうだし。
ライの様な――。
「お姉さんじゃなくて……って呼んで欲しいですね」
おっといけない。
と自分を戒めて、眠る準備をする。
まずはその前に、明日また未来に向けての対策を練らないと。
「やあ」
突如天地逆さまになったスーツ姿の青年が、自分の視界を塞いだ。
誰!? どこから!? どうやって!?
その思考が精一杯だった。それ以上の思考は出来なかった。
「うっ……!?」
青年の眼に描かれた魔法陣が、自分の中に入っていく。
そして全ての視界が塞がれ、聴覚も塞がれ、何もかも塞がれ――。
(これは……催眠……魔……)
「初めまして、レアル。僕はパチ。思ったより本当に子供な娘なんだね」
いつもなら憤慨する筈のレアルは、何も反応を見せなかった。
人形の様に、生気を感じさせない眼を代わりにパチに見せる。
「本当は、“狼少年”を洗脳したかったんだけど……天使を手に入れるのが僕ら“髑髏の天秤”の最重要命題だから、リスクの少ない君に僕のお友達になってもらうね」
「……天使……手に入れる」
「そう。僕らみたいな部外者が近づくと天使ちゃんは察知能力で反応しちゃうから、お姉さんと呼ばれてる君なら警戒させずに近づくことができる筈」
「……」
糸に吊るされたマリオネットの様なレアルに、魔術を根底から封じる特殊な枷を与えてパチは耳にささやきかけた。
「じゃあ友達の証として、天使を連れてきて。なるべく周りを起こさない様に。君なら出来る筈だよ」
「……」
そしてレアルは部屋を出て、今まさに寝ようとしていたトゥルーに近づく。
「どうしたの、ライお姉さ……うっ」
もし部外者ならまったくしなかった油断。
一瞬で接近を許し、首筋に衝撃を与えられた結果、その場に崩れ落ちるトゥルー。
そんなトゥルーに魔術封じの枷を両手両足に嵌め、そしてパチの前に持っていく。
「じゃあ一緒に行くよ。狼に喰われる前に、赤ずきんにならないように逃げるよ」
そして誰もいなくなった。
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