第31話 嘘つきに相応しくない、誕生日
今日はトゥルーとレアルが二人でどこかに行っていたので、俺は昨日捉えた闇ギルドの連中から毟り取れた情報とにらめっこしていた。
レアルが書き残した黒板に書かれた地図。
支部はもう殆ど潰れ、本拠地も見え始めている。
大体の範囲は絞れた。だが新しく奴らのアジトは増え続ける。
これでは鼬ごっこだ。
「……」
俺は一人、屋敷の中でチョークを持ちながら沈黙していた。
龍王の言っていた破滅の未来まで、あと半月。
あれからトゥルーは作戦には参加させておらず、出来得る限りあの未来に行きつかないように努力してきたつもりだ。
「……」
髑髏の天秤以外にも闇ギルドがいるから、目を光らせておく。
奴らもこの世界の膿の、氷山の一角にすぎない。
レアルなら大丈夫だと思うが、もっと迅速に動かなければ。
髑髏の天秤の規模は確実に減らし、目ぼしい人物は次々に捕まえているが、速度が足りない。
何より不甲斐ない事に、俺は奴らの頭領と副頭領の名前も顔もまだ判別していない。
こういった闇ギルドには、少なくとも頭領がいるのがセオリーだ。
あの泥棒の創世にも、頭領がいた。
俺にとっては、奴こそがテルースを殺し、エルーシャの心の平衡を崩した奴だと思っている。
そして。
泥棒の創世は、頭領がまだ捕まっていない。
俺は、思わずその頭領の名前を口ずさんでいた。
「“エイトハンドレッド”……」
いやいや、今思い浮かべるのは仇の事じゃない。
過去を嘘には出来ない。
俺にできるのは、未来で待ち構えている髑髏の天秤を完膚なきまでに潰す事だ。
「……ライお兄さん」
「どうした? トゥルー」
というかいつの間にか帰って来たのか。
トゥルーは帰ってくるなり、座っていた椅子の背後から急に抱き着いてきた。
「根詰め過ぎないで」
「レアル曰く、こんなのは労働にも入らないそうだ。気持ちが良く分かるよ」
「でも最近のライお兄さんは張り詰め過ぎてるから……!」
そんなに怖い顔をしていたのかな。両肩に回す腕越しに、彼女の不安が伝わる。
俺は優しくそれを解きながら、いつものように頬をかいてトゥルーを諭す。
「龍王が言っていた破滅の未来まで、もう半月なんだ。それを乗り越えたら、また元の生活に戻れるから」
「……でも今日くらいは、いいと思う」
「どうして?」
俺の手を握り締めて、
「来て」
と引っ張られた。
最初この街に来た時に、イリーナさんに冒険者ギルドへ連れていかれた時の事を思い出した。
あの時と同じ様に、振り払えるけれど有無を言わさない何かがあって。
しかも今回は、何があっても連れていくという物凄い意志があったから。
連れていかれた先は庭だった。
瞬間、パァン、と。
何かが炸裂するような音が、何個も何個も。
降りしきる長短様々な髪に塗れた俺に、レアルは、ビートルさんは、イリーナさんは、プリンスさんは、そしてトゥルーは。
声を揃えて、合唱するように言った。
「お誕生日おめでとう!」
……ああ、そうか。今日は4月1日か。
今日誕生日だったっけ、俺。
眼前にはパーティー会場が広がっていた。
しかもこの香りは、なんだかとても心地よい。
「味覚を感じないライが楽しめる様に、香りで味わえる料理をたくさん用意しました」
レアルが何個ものテーブルの上に置かれた食事の説明をした後で、口癖のような「まったくもう、まったくもうなのですよ」と腕組をして見上げる。
「パーティーに誕生日も教えないとか、匿名主義もいいところなのですよ」
「はは、言ってなかったっけ?」
「恍けても無駄です。まあ、今日は破滅の未来なんて忘れて下さい」
レアルは、力を抜くように言ってきた。
「今日くらいは、生まれてきたことに感謝してください」
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