第28話 流れ星に三回数える、三人の約束
きっと龍王は、俺達に可能性を懸けてくれたのだろう。
もしかしたら、最初からこの未来も見えていたのかもしれない。
魔物の大侵攻という切り札を使ってもなお変わらぬ未来に絶望しながらも、それでも役割を果たそうと必死だった。
ずっと、探していたんだ。
世界が救われる、可能性を。
俺達は誰一人、龍王が一体何をしようとしているかを語る事はあっても、彼が見せた絶望の未来に触れる事無く。
翌日の夜に屋敷に戻った。
俺はベッドに横になった。
何やらビートルさんとイリーナさんがSSランク討伐パーティーを開くみたいだが、今日は(トゥルーとレアルが)疲れているから明日にしてくれとお願いしての帰宅だった。
というのも半分あるが、俺は龍王が見せた絶望の未来について思い出した。
トゥルーが天使らしい破壊者として君臨している傍らで、エルーシャは人殺しを楽しんでいた。
一方で誰かを探しているみたいに、でもそれがみつからなくてイライラして命に八つ当たりしているかのように。
誰を探していたんだ?
もしかして、俺じゃないだろうな。
エルーシャ。お前は今一体、同じ月を見て何をしている?
何をしようとしている?
「お疲れの所失礼します。ライ」
「ライお兄さん、ちょっとだけいい?」
トゥルーとレアルに誘われて、トゥルーの手に引かれて向かったのは屋上だった。
星がきらきらと瞬く、快晴の夜空だった。
夜は静かな街という事もあり、漆黒の背景に散らばる星屑達で夜空は騒がしい。
漆黒に、剣閃の様な線が過ぎ去った。
どうやら今日は特殊な流星群の日で、流れ星が良く見えるらしい。
「来た! 流れ星!」
と、トゥルーが指差す星座に線が走ると、すぐさま目を瞑って、
「みんなが幸せでいつまでもいれますように、みんなが幸せでいつまでもいれますように、みんなが幸せでいつまでもいれますように」
と唱えるのだった。
「何してるの?」
「お母さんが言っていたんだ。流れ星に三回願うと、それが叶うんだって。お父さんとはそうやって巡り合ったって」
「やれやれ、やれやれなのですよ。トゥルーもまだまだ夢が沢山詰まってますね」
両肩を竦めるレアルに、トゥルーが素直に悲しそうな顔をする。
「ライお姉さんは、信じてないの……」
「科学的に分析されているというだけなのですよ。引き寄せの法則と言って、言った言葉というのは実現しやすいという奴ですね」
「引き寄せの法則?」
「なので一回で十分という奴なのですよ」
講師の様に、現実的な理論を言って聞かせるレアル。
しかしそうはいってもレアルも流星群には目を奪われている様で、決して感情が揺さぶり起こされていない訳では無い様だ。
現に、二人で賑わいながら夜空を仰いでいるのが証拠だ。
「ライお兄さんはどう? 流れ星」
流れ星の様に突然話を振られる。
流れ星――と聞いて、一つの経験を俺は語る。
「昔、村の幼馴染が良く行っていたんだ。あれは宇宙から塵が落ちてきているだけで、そんな摩訶不思議な力が無いって」
「おやおや、ライらしい現実路線ですね」
「でもさ。流れ星見た時に、皆意識統一されたじゃんね。未来でみんなが幸せになれる様にって」
トゥルーとレアルはお互いを見合い、成程、という顔をしてくれた。
「流れ星に願いをかけるっていう伝説には、そういう力があるからなんだなって思った」
流れ星を指差すと、皆が同じ方向を見る。
どこかどこかと一緒に探す。
その瞬間、俺達は一つになったような感覚を覚えていた。
少なくともテルースがいなくなる前。
何かを失うとか、覚悟するとか、刻みつけるとか。
そんな世界の約束を知る前、がっかりするほど子供だった俺やエルーシャには、そんな純粋な気持ちがあった筈で。
「っていうか何一人で立ってるんですか。ライも座りなさい」
「ほら、ライお兄さん、こっちこっち!」
はしゃぐ二人に両手を連れられて、俺はトゥルーとレアルの間に座った。
庭の上で、天使と令嬢に両方から寄りかかられながら、俺は動けないまま星空を眺めていた。
「二人に話しておく事がある」
「なんです?」
「世界の破滅の未来の先頭に立っていたのは――俺の幼馴染である、エルーシャだ」
「救世の剣聖、エルーシャですか!?」
レアルが驚く声を発する。
俺は頷きながら、話を進めた。
「何故エルーシャが、世界を滅ぼそうとしていたのか、俺に分からない。トゥルーがどうしてエルーシャの隣にいたのか、俺には分からない」
「エルーシャさんは……この前話していた、姉?」
以前、トゥルーには話した事があった。名前は伏せていたが、エルーシャという姉とテルースという妹がいたことを。
俺は再び頷いた。
「俺はエルーシャから逃げた。絶縁して、逃げ出した。もしかしたらそれが、破滅の未来の引き金になったのかもしれないって思ってる」
「……だからって自分一人で責任を背負うとか辞めて下さいね」
レアルは自分の膝に頬を付けながら、俺に言うのだった。
「やっと自分の昔の話をしてくれましたね。まったくもう、まったくもうなのですよ。嬉しいのですよ」
「……まだ沢山俺の中には、嘘がある」
「ゆっくりでいいですよ、そんなもん」
レアルの優しい言葉の後に、トゥルーが突然立ち上がる。
そして星空を示す様に、両手を上に掲げる。
「この流星群はね、4ヶ月後もあるんだって! イリーナさんに聞いたんだ!」
「そうなのか」
「だから三人で、また一緒にこの星空を見よう……!? そのために3ヶ月後……世界の破滅の未来を超えよう」
俺達二人を引っ張るような発言。初めてだった。
トゥルーはそう豪語した後で、若干目を逸らす。
「……その未来で世界を壊している私が言えたことじゃないかもしれないけれど」
「そんな未来には俺がさせない」
トゥルーの前に立つと、抱きしめながら続ける。
「探そう。俺達三人で、トゥルーエンドって奴を」
「ええ、探しましょう」
レアルが隣に来て、両手を広げた。
そのまま抱き着いてきたので、三人で抱きしめ合う形になる。
少女たちのぬくもりが暖かい。柔らかい。そこはかとなく、石鹸のいい匂いがする。
「探しましょう。龍王も一緒になってくれています。滅亡の未来って奴を」
「一つだけ、天使、トゥルーとくればそこに出てくるべき奴らの名前が浮かび上がる」
星空のアーチを背に向け、屋敷に戻り始めたところで。
俺は見据えるべき、未来に向けての障害を口に出した。
「――“髑髏の天秤”」
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