第27話 過去は嘘には出来ない。しかし未来は嘘にできる
その後、俺は龍王を引き上げ、隣に横たえる。
俺の何十倍もでかい龍王は、その着地だけでどすん、と地面を震えさせた。
「大丈夫か? 龍王」
「生憎貴様の様に造りは丈夫でな。精霊は」
「そうかい。そりゃよかった」
とはいえ暫く動けるようには見えない。
「もしかしてもう地面を動かす余力もないか?」
「多少はあるぞ」
「ならさっきトゥルーとレアルを塞いだ所、開いてくれない? 多分あの二人の事だからいるから」
「馬鹿な、出口を用意したのだぞ」
龍王が地面を操って先程トゥルーとレアルを遮った地面の層が開いた。
直後、二人の少女が俺の下へ駆け寄ってくる。
二人とも案の定、酷く泣きじゃくりながら。
「ライお兄さん!」
「ライ!」
二人ともやっぱり、という顔で俺の欠けた右腕を見る。
「大丈夫、自然治癒す……」
「
当然聞く暇もなく、特別扱いしないと豪語していたトゥルーが天使の唄を奏でて俺の右腕を元に戻す。
治った右腕をぎゅ、と握り締めるトゥルー。
「……無茶するんだから、ライお兄さんは」
「今日は二人とも許してくれ。じゃなきゃ勝てなかった」
「今日は事が事なので……今日は特別出血大サービスって奴なのですよ」
不服そうな顔。
不安で、心配で、仕方なかったって顔。
二人の爪には魔術も効かない俺達との壁をそれでも何とかしようとしたのか、引っ掻いて爪が折れているのが見えた。
なんとしてでも、俺を助けに来てくれようとしたのが分かる。
「お前達の爪こそ回復しろよ……ボロボロだぞ」
「え、ああ……うん」
二人で回復魔術をかけあっていると、龍王が近づいてくる。
うん? 俺が与えたダメージ全回復してないか?
「待て天使、我まで治したというのか」
龍王の質問に、首肯するトゥルーの髪が揺れる。
「うん……きっとこうして二人とも寝転んでるって事は、ライさんと龍王さん、戦いは終わったんだと思って……!」
トゥルーは龍王の前に近づき、自分よりも大きな顎に触れる。
天使は龍王への嫌悪感は捨て去った様だ。
「それに、やっぱり未来は変えたい……あなたの力が必要です。お願いします、貸してください」
「……それは自分が破壊者となる未来をか」
トゥルーはまた頷く。今度は歯を食いしばった表情をしながら。
「私は破壊者になりたくない。もっとみんなといたい。だからその未来を選びたい……もっとモルタヴァを見ていたんだ」
「日常を選ぶか。時の流れに埋もれたと思えば見つけた天使だが、しかし時代は変わったものだ」
「ご先祖様たちが、どうして人類を敵にしたのかは分からない。でも、私は人間と友達で会って、家族でいたい」
その人間に家族を殺されたのに。
本当に強い子になった。俺はトゥルーの後ろ姿を見て、翼の生えた背中を見てそう思った。
しかしそうか。龍王、古代からいるから天使が破壊者だった時代を知っているのか。
一方のレアルは、龍王にまだ若干睨むような目で見ていた。
「信用できないか? 龍王を」
「……さっきの未来も。私達を惑わす幻覚って可能性を捨てきれていません」
「だとしたらいいけどな」
「ですが。そういう可能性もあるって線も捨てきれてません。王国と帝国は、仲悪いですから」
レアルはトゥルーの隣に立つ。
先程まで抱いていた恐怖感を乗り越え、対等な存在として龍王を見る。
「未来を、教えてください。私達が懸命にそれを回避して見せます」
「我が言う未来を、信じるというのか」
「そうならない様に動く。これはモルタヴァを愛する人間の役割です」
「……」
「どうか、力を貸してください」
二人の少女に頭を下げられ、龍王は一瞬だけ動きを止める。
「ライを通して見ると、未来が変わる」
「俺を?」
「先程言った通り。お前だけ未来がコロコロ変わるのだ。決して定まらぬ」
「何故だ」
「我の耄碌か、あるいはお前が人も世界を超え始めているのか、そのどちらかだろう」
「どういう意味だ?」
「さあな。未来はもう、我にも分からぬ」
すると龍王は次第に緑色の光粒に変換されていった。
煌めいて空洞内の風に舞い上がっていく光を見て、少女二人も声を上げる。
「案ずるな。死ぬ訳ではない。お前達人間をもう少し近くで見たいだけだ」
「精霊……まさか龍の姿すら仮だったのですか」
「未来の変換点を私は探す……その時、お前達の前に現れる」
蛍が織りなす幻想的な光景の様に、緑光で一杯になった世界。
その中心で遂に緑の粒子へと完全に散りばめられていった龍王は、最後にこんな言葉を残していった。
「ライ。過去は嘘には出来ない。しかし未来は嘘にできる。嘘の怪物よ、未来を嘘にしてくれ」
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