第17話 冒険者ギルドからの緊急依頼
緊急依頼。
それはランク指定すらされない、冒険者ギルドに登録しているメンバーなら誰でも着手可能な依頼である。
かつ、冒険者ギルドがモルタヴァの緊急事態と判断し、王国に許可を取るよりも前に一大私兵団を築き上げる招集でもある。
勿論王都へ兵を要請し、モルタヴァにも駐在の王国兵はいるのだが、それでも足りないし間に合わないという判断だ。
レアルの父親、アドラメレークが直々に依頼として貼った『龍王山脈からの魔物の大襲来』という依頼書。
冒険者ギルドの酒場は、それを見に来た冒険者達ですし詰めになっていた。
「どこかでこうなる事は予測していました。だから龍王の先手を全て潰し、戦力を削いできたつもりです」
俺とレアルとトゥルーは、そんな彼らの後ろ姿を眺めつつ、今日までやってきた事を振り返る。
受付の前にいたので、その話はイリーナさんも混じっていた。
「レアルお嬢様。でもどれだけ削れていたんでしょうね」
「さっぱり、さっぱりなのですよ。少なくともモルタヴァに近い魔物達の主力は叩いたつもりですが、他の地方の魔物を集めているとかだったら少々厄介って奴ですね」
両肩を竦めながら、レアルが小さく笑った。
人事は全て尽くした。そんな顔だ。
しかし魔物の規模はどうやら五千を超えるようで、中にはSランク級も散見されるというのが、プリンスからの情報だ。
戦争レベルかよ。
こちらも兵士、冒険者併せても五千を少し超えるか否かくらいだ。
魔物慣れした手練れの冒険者がいても、この規模はただ正面から戦うだけじゃ、明らかに犠牲者が出るな……。
「だがここまで大規模にやってくるって事は、龍王さんも後がないんだろ? レアル」
「いい質問ですねぇ! その通りです」
パチン、と指を鳴らして得意げそうな顔になるレアル。
そんなんだから俺からお姉さんと呼ばれないんだよ。
「ライ、トゥルー。ここを凌いだら、一気に龍王の所まで駆け抜けます」
「了解した」
「うん……前々から言ってたもんね、お兄さんもお姉さんも」
龍王が一体何を目論んで、本来本能のままに生きる魔物達を統一し、俺達人間を襲ってくるのかは分からない。
だがいい加減、龍王と決着を付けなければ、このモルタヴァは毎日魔物の脅威にさらされる。
出てきた魔物を潰すだけの対症療法では足りない。根本である龍王を叩かないといけない。
「つーわけでイリーナさん。龍王討伐の依頼受託も同時に頼んます」
話は聞いてたけどこのタイミングで? とイリーナさんが苦笑いをしながらも、受託処理を進める。
問題はない筈だ。
龍王討伐の依頼は元々冒険者ギルドから出されていた以来だ。
そして俺達のパーティーはこの一ヶ月の成果で昨日、“SSランクパーティー”として認められている。
故に、SSランク任務の龍王討伐の依頼は、今日からなら受けられるのだ。
もっとも、その翌日に魔物が徒党組んで襲ってくるのは出来過ぎだが、ピンチはチャンスだ。
「……でも、まずは目の前の大群をどうにかしないと」
トゥルーの発言に、現実に引き戻される。
その通りで、まずは目の前の中ボスたちをどうにかしなければ、街は壊滅する。
まずは人間を食糧にせんとする怪物達に、帰ってもらうか還ってもらうかしないといけない。
「……さっき、魔物達は密集してるって言ってたから、私が遠隔魔術でそれなりに倒せるかもしれない。さっきレアルお姉さんのお父さんが、魔術師部隊も結成するって言ってたよ?」
「魔術師部隊か」
「私も、そこに入って、魔物達を削れれば……!」
その通り、魔物達は今回一ヶ所に集まって一気に襲ってくるようだ。
確かに真正面から受ければ、人間の集団ではひとたまりもないが、逆を言えば魔術師からすれば遠隔攻撃の格好の的なのだ。数を安全地帯から減らし、受け皿から漏れた連中を剣士部隊が突く。
魔術師部隊にトゥルーも入って、そこから天使所以のSSランク魔術で一掃すれば問題はないという考えだろう。
だが俺は首を横に振った。
「いや、魔術師部隊にトゥルーは入れない」
「どうして?」
「この街には髑髏の天秤がいる。魔術師部隊にそいつらが潜んでいたら、隙を見て君を連れ去ってしまうかもしれない」
「ライの言う通りです。髑髏の天秤はどうやらあなたをまだ発見できていないようです」
俺のフォローをするように、レアルも首肯しながら続ける。
「ですが魔術発生の際、あなたの高火力は魔術師部隊には少なくとも認知されます。その中に髑髏の天秤が混ざっていたらアウトって奴なのですよ」
「……そっか、私もそれは、いやだ。ごめんなさい、そこまで考えてなかった……」
しかしトゥルーの高火力魔術は今回有効打だ。
今の状況で、主役に立つべき存在はトゥルーだ。魔物の密集地帯へありったけの火力をぶち込めば、これ以上の先制攻撃はない。
後は数の理論で、万全の状態と人数である人類側で駆逐できる。
俺もレアルもそこは共通認識だ。
「……だったら、周りからトゥルーが見られない場所で、役に立ってもらえばいいんじゃないか?」
俺の言葉に、レアルが思案するようなそぶりを見せる。
魔物達は統率されているが、そのせいか彼ら自身の足取りも遅い。
まだ魔物達と、モルタヴァ付近の戦場となるポイント地点まではかなり距離がある。
つまり、その二点の間にまでくれば、魔物からも人間からも補足されない訳だ。
だったら。
「つまり、フライングして戦場に行くって事ですね?」
「そういう事だ」
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