第14話 マジカルリミテッド

 俺達がたどり着いたのは、周りより少しだけ大きな建物だった。

 診療所のようで、確かに医者がいる事は納得できる。しかし既に黄昏時。診療所は閉店の様だ。

 まるで特権階級の人間の様にレアルが扉を開け、奥まで行くとノックをする。

 この部屋の奥に医者がいるのか。

 

「レアルです」


「どうぞ」


 中に入った。

 ビートルさんが白衣を着て立っていた。

 最初に依頼受けた時、レッドバッファローを一緒に倒した人だ。

 

 いや。

 ちょっと待て。


「……ってビートルさん!?」


「えっ!?」


 俺もトゥルーも声を上げてしまった。


「よう、ビートルズに入る気になったかい?」


「いや、なんでビートルさんがここに……?」


「ん? ああ、俺医者をやっててさ。冒険者ギルドは休日のみの小遣い稼ぎみたいなもんさ」


「へぇ……そうなんですか」


 この男、医者で冒険者だった。

 

「既に知り合いなら話が早いです。ビートルさん。彼の診療をお願いいたします」


「分かりましたレアル嬢。ライ、こっちに」


 俺は奥のベッドに寝かせられた。

 医者から病気を診てもらうように、上半身の服を脱ぐ。

 俺の裸体に、特殊な魔石を何個か置かれる。

 

「しかし流石に肉体能力SSだ……堅ぇな」


「診療できないとか?」


「いいや。医者をなめんなよ」


 やがて診療終了の合図が出て、俺は服を身に着ける。

 暫く魔石から自動記載された紙とにらめっこをしていたビートルさんが、やがて俺の前に座る。

 しかし信じられない、と驚愕した顔で、だ。

 

「ビートルさん、俺はどこか悪かったんですか?」


 ビートルは紙から俺に目を移し、その病名を伝えた。

 

 

魔術上限病マジカルリミテッド……それが君の病名だ」



 当然知らない病名だった。

 レアルも、トゥルーも知らない名前だ。

 

「なんです? その……マジカルリミ……」


魔術上限病マジカルリミテッド。端的に言えば、最大で現象化出来る魔力が限られているという事だ」


 ビートルさん曰く。

 普通は魔力を火など、現象化した状態に変換して放つ。それが魔術だ。

 その魔力量によって、初級魔術、中級魔術、上級魔術、極大魔術と放つ魔術が決まる。

 だが俺はその魔力から現象化した状態への変換に生まれつきの異常がある。

 

 結論から言えば、俺はどんなに努力してもCランクレベルまでの魔術にしか、魔力を変換できない。

 発射口となる部分が、生まれつき細いまま固定されてしまっているのだ。

 

「ちなみにビートルさん。その病気を治す手段は?」


「生まれつきの体質だから如何ともしがたいな……」


 医者として情けないけどね、と付け加えるビートル。


「いや、自分が何故魔術がこうも弱いのかよく分かりました。思えば俺、24時間魔術を放ってた訓練をした事があるんですが、まったく疲弊しなかったんですよ」


「……今色々ツッコミたいところがあったが、Xランクの魔力を持つ君にとって、Cランクの魔術なんて息をするのと同じくらい消費の無い事、という事だね」


「ちなみにこれは皆に質問ですが、魔力を魔術に変換せずに戦闘に役立てることは出来ますか?」


「………………………………」


 沈黙。

 確かに魔力は魔術として変換する以外に、俺は使い道を知らない。

 おかしなことを聞いているのを承知で、周りの反応を伺っている。

  

「……可能です」


 返事をしたのはレアルだった。

 だがどうしても言い憚る事みたいで、その続きを口にすることは無かった。

 その続きを話したのは、ビートルだった。

 

「可能だが、やめておいた方がいい」


「何故です?」


「体内に流れる魔力回路を暴走させ、その回路を肉体ごと突き破って外に出す事になるからだ……最悪死ぬ事になる」


「ライお兄さん、私もとっても良くない気がする……!」


「その通りです。Xランクの魔力については、別の方法を探しましょう」


「……」



 トゥルーも、レアルも、ビートルさんも。

 本当に優しいな。

 俺は痛覚を感じないのに。

 俺はどんなに傷ついても、死なない限りは自然治癒するのに。

 こんな自分の事を心配してくれている。


 きっと俺と皆の理解は共通している。

 “無理矢理魔力を肉体から解放する”なんて事をすればどうなるか。

 

 だけど、俺には守りたいものがある。

 また出来てしまった姉妹の様な存在。

 俺は、勝手だけど、君達が悲劇に滲む様だけは見たくないんだ。

 それだけは、俺が死ぬよりも嫌なんだ。

 もう何も出来ないのは、嫌なんだ。



 その後、トゥルーとレアルが十分寝静まった深夜。

 俺は屋敷を出た。


 実際に、本当に戦力になるかどうか試してみる事にしたかったから。

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