第11話 パーティータイトル「いのちをだいじに」

「Sランク指定の魔物を倒したんですよ。もっと喜んだらどうです?」


「そんな事より、二人が生きている事の方がうれしいよ」


 ふっ、と鼻で小さく笑うレアル。

 だがすぐにトゥルーに咎める様な目線を向けた。

 

「それで、それでなのですよ。何故狼煙を上げなかったんですか? あれだけの気配の魔物です。気付かなかった、はないですよね」


「はい……」


 俺とレアルを交互に見ながら、狼煙を上げなかった理由を語る。

 上げられなかったのではなく、上げなかった理由を。

 

「察知は出来たんですけど、敵は一つで……二人共忙しかったから、一体くらいなら、私でどうにかできると思って」


「結果あなたは殺されかかったんですよ!? 分かってるんですか!?」


 必死な大声で、トゥルーの両手を掴みながらレアルが事態の深刻性を語っていた。


「……そんな結果になるのが嫌だったから、拠点の場所を考えて、約束を交わしたんですよ。それがパーティーなんですよ」


「……はい」


「約束に従えないなら、今すぐパーティーを抜けて人攫いに遭わないよう布団の中に包まってなさい」


「トゥルー」


 レアルにばかり辛い役を押し付けるのも嫌だったし、俺からも言いたい事があった。

 

「一緒に依頼をこなしているのは、トゥルーに助けてもらう為でもあるし、トゥルーを助けるためでもある。昨日の夜散々話したよね?」


「うん、ライお兄さんと話しました……」


「だからすぐに助けて! って言ってほしい。約束を守って、狼煙を上げてほしい。そうじゃないと俺は助ける事も、助けられる事も出来なくなる」


 なんでだろう。

 さっきフェンリルに噛まれた部分が痛いせいかな。

 いや、俺からとっくに痛覚は消え失せている。

 でも厄介な事に、心から痛覚っていうのは消えないらしい。

 

 だから俺は自分の涙が、草花や砂を濡らす事に疑問を抱かない。

 ただ目の前の少女が、いなくなった未来に怯えているだけだ。


「生きててくれて、本当に良かった」


「……ごめん、なさい……」


「言っておきますけどね、トゥルー。あなたがいなくなったと知った時、ライは家族のようにあなたを探していたんですよ」


「恥ずかしい事言うなよ、レアル」


「本当の事を言って何が悪いんです? いい事じゃないですか」


「あ、あの……」


 トゥルーが泣き顔で、俺とレアルを交互に見る。

 

「……もう、無理しません……約束、守ります……」


「そうしてください。このパーティーには命を大事にしない人が多すぎ問題なので、いったん“いのちをだいじに”をテーマにしましょう」


「ああ。まずは命あっての事だ。生きる事を優先するんだ、トゥルー」


「これ一番あなた向けの言葉ですけどね」


「えっ」


 俺は振り返って、冗談ではなく本気のレアルの顔を見た。


「いいです。この後のミーティングで吊るし上げますから」


 ふふ、とトゥルーからようやく笑い声が聞こえた。


「うん、帰ろう。ライお兄さん、レアルお姉さん」


 トゥルーが立ち上がった瞬間、何故かレアルがこれまで見たことのない勝ち誇った顔をしていた。

 贅沢な料理を味わったような、クールビューティーな彼女からは想像だにしなかった恍惚とした表情だ。


「なんだ分かってるじゃないですかトゥルー。そうです、その響きです、お姉ちゃんでも可ですよ!」


 少しばかり調子に乗った顔になって、俺に近づいてくるレアル。

 

「次はあなたの番です。復唱なさい。はい、レアルお姉さん」


「後のミーティングであんたの姉扱いされたい問題もアジェンダ入りで」


「何ですか? 私が姉になるのがそんなに嫌なのですか? 反抗期なのも構いませんけれどね、年上を敬うという事をあなたは推して知るべきです。それのリハビリと思いなさい」


 その後は本当に家族になったかのように、談笑をしながら帰路についた。

 勿論イリーナさんにちゃんと生存報告と依頼達成報告をしてから、俺達は住処となるレアルの大きな屋敷へと向かったのだ。

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