第29話
[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】29 ]
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「ロディア」、いつもの風景。
....と言えば嘘になるが、見慣れた光景であることには変わりない。
そろそろ、招かれざる客が来そうな頃合。
バタバタと騒々しい足音と共に、入り口のドアが開け放たれる。
「はぁ....はぁ...いきなりすいませんス!!ロディアって、ここで間違いないッスか!?」
「あー、そだけど....」
息を切らしながら入店してきた小柄な少女は、俺の答えを聞いて、待ってましたとばかりに目を輝かせる。
「良かったぁ....あ、自分この辺で私立探偵やってる末柄 ミチルっていいます!」
「....で、その探偵さんがうちに何の用?」
「ここって血魔が集まってるってホントで....むぐぐっ!?」
姿を消し背後に回っていた貫井さんが、末柄の口をハンカチで塞ぎ、続きを騒ぎ立てるのを防ぐ。
「....貫井さんナイス。じゃ、奥で話聞くからついてきな」
奥の応接室に通し、ソファーに座らせる。
「すまんね、コーヒーぐらいしか出せなくて」
「いえ、お構い無く!」
「ところでさ......小学生がなんで探偵やってんの?」
「小学生っ!?私今年22ッスよ!?」
「またまたそんな分かりやすい嘘を~。オジさん簡単に分かっちゃうんだからね」
「違いますってぇっ!」
しかし、実に華奢な体格をしている。
探偵だと名乗ったために気づいたが、店に入ってきてすぐは俺は本気で彼女を小学生だと勘違いしていた。
「でさ、血魔がなんとかって言ってたが?」
「あ、それなんですが」
直後、彼女の背後に、彼女と同等の姿をした人が出現する。
「私も、血魔なんです!」
「へぇ....マジか....」
その分身は容姿こそ同一であるものの、身体は所々液体となって零れているため、血を使って生み出していることが推察される。
「で、用はなんだ?」
「”マスカラーダ”って知ってます?最近暴れてるらしい血魔集団!」
「....知ってるよ。俺達もちょうどそこを叩こうと思ってたとこだ」
「私、独自にマスカラーダの調査をしていたんスけど、有力な情報を掴んだんスよ!!」
”マスカラーダ”の情報。
俺達にとっては喉から手が出るほど欲しいものだ。
「......いくら払えばいい」
「いえいえ金なんて取らないッスよ!コーヒーのお代わりを貰えればそれで!」
と、彼女は空になったカップをソーサーに置く。
見計らったように向井が部屋に入り、コーヒーのお代わりを置いていく。
すっかり板についてきたようだ。
「あ、どもッス」
「.......その情報ってのはどんなのさ」
「”マスカラーダ”リーダーの顔写真ッス!正真正銘本物ッスよ!」
「....どれ、見せてみな」
「ハイ!....えーっと....これッス」
差し出された写真には、なんと吾立の顔が写っていた。
「何でも異名は”不壊の飛蝗(グラスホッパー)” らしいッスよ!敵ながらカッコイイッスねぇ~」
「....オイ、こりゃあ何の冗談だ」
「......?何がッスか?」
末柄は不思議そうに首を傾げる。
「.......端的に言おう、話が長くなる。こいつは、俺達の仲間だった奴だ」
「えぇっ!?」
「二ヶ月前に色々あってな....今は姿を消してたとばかり思ってたが、まさかこいつが....」
写真の顔を見る。
その表情は無を具現化したような空虚なもので、覇気のない赤い瞳でどこか遠くを眺めている。
「....まァいい、情報提供、感謝する」
「いえいえ....ところで、もう一つお願いがあるんスけど....」
「......なんだ?」
「ここで働いてもイイッスか?」
唐突に放たれた突拍子もない発言に驚く。
「いやぁ~自分、探偵こそやってますけど如何せん依頼が最近減ってきてて....割と財布がピンチっていうか....ダメッスかね....」
「....いや、良いよ」
「ホントッスか!?」
「あぁ、数が増えるのァ良いことだ。お前がいりゃあ多少賑わいそうだしな」
「....どういう意味ッスかぁ、それ....」
血魔グループのリーダーが吾立、か。
厄介なのを相手取っちまったもんだ。
「それじゃ、明日からにでもお邪魔すると思うんで、よろしくッス!」
「....おう」
喧しくバタバタと出ていく末柄を見送り、再び例の顔写真に目をやる。
いずれは敵対するだろうな。否応なしに。
こうして正式に敵となった以上、戦うしかないことはわかっている。
だが、どうしても、心の中の何かがブレーキを離さないのだ。
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