第28話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】28 ]

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”クローバー”、元本部。


激闘の末敗北し、床に倒れ伏す青年。


血魔になってからずっと、死にたかった。

人を傷つけるならと、死にたがった。

ようやく、その願いが叶うと思ったのに、倒れる僕の顔を覗き込む少女は、それをフイにしようとする。


『死にたくない?』


「........やっと死ねるんだ....邪魔するなよ...」


『貴方は、まだ死ぬには早いよ』


少女は、蔓のような繊維が絡み付いた、黒々とした液体の満たされたガラスの筒のようなものを見せる。


『憎いでしょう?この世が、襲い来る不条理が、愛する人を守れない悲しみが』


「.................あぁ」


『その悪意を糧に、また気儘に殺しましょ?久家 文哉。貴方は自らの欲望に従いその翼を広げる、鴉になるの』


「セラフ」と名乗った少女は、その筒を僕の腹に突き刺した。

その瞬間、欠損した部位、失った血液が全て元通りになっていく。

と、同時にその隙間から黒い泥のような組織が溢れ出す。


「ぁあぁああぁあぁぁぁぁッ!!!!」


それは、凄まじい激痛を伴い、まるでガスバーナーで患部を炙られているような激しい感覚に襲われた。


『お帰り』


「僕は....いつ死ねる....」


『少なくとも、貴方が死ぬまで、死ねないわね』


「ははっ....ははは....」


苦しい。

今の僕には、死より生が最も致命傷となりうるものだ。


もう、諦めようか。

思うがままに、殺し、殺そうか。

僕を殺してくれる誰かが見つかるまで。


「....来イ」


顔には嘴を想起させる尖った仮面。

背には鴉の翼たる漆黒の羽が出現する。

これが、僕の翼だ。

何人たりとも触れられない、破滅に羽ばたくための翼。


さて、誰から喰ってやろうか。

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