第27話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】27 ]

『殺す....ッ!!殺してやる!!』


「わかんない人だな」


吾立は、身体に何度茨が絡み付こうが、力で無理矢理その部位を切り離し即座に再生することでダメージを無にしている。

それを無数に繰り返し、距離を詰めている。


そして間合いに入った瞬間、吾立の後ろ蹴りが血魔の首を捉えた。


『カハァ....ッ!!』


「痛い?絢香はもっと痛かったと思うよ」


続けざまに、放たれた踵落としが血魔の脳天に突き刺さる。

怨嗟に満ちた、絶え絶えの呻き声を発しながら、頭蓋を砕かれた血魔は倒れる。


「ここには、俺達以外に誰もいない。もうここにいる意味も義務もない」

「だから、帰れよ」


「できるか。俺達はお前を助けに....」


「プロフェッサーは殺した。その残党も、今殺した。俺は、誰がどうやっても助けられない」


言いながら、吾立は割れた天窓の縁に飛び移る。


「二度と会わないことを祈ります」


俊敏に窓から飛び出し、ビルを飛び移り素早く逃走する。


そこに、血塗れになった藍原が、足を引きずりながら歩いてくる。


「....はァ.....クソ....ッ」

「藍原!アイツは!?」

「勝ちましたよ....ギリギリね....」


「久家は...何と...?」


向井が藍原に問いかける。


「”ありがとう”ですって....死に際に、笑顔で....」


「そう、か....」


「タケトぉ....!生きてて良かったぁ....!」


雪が涙を拭いながら藍原に強く抱き付く。


「痛ッ....ちょっと、あんまり今触んな...」

「あっ、ご、ごめん!」


「....帰るぞ、お前ら。目的は果たした」

「坂城さん、湊のヤツはどこへ....?」


藍原の問いに対し、つい口をつぐんでしまう。

しかし、真実を伝えなくてはならない。


「アイツは....出ていった。俺達と二度と関わりたくないんだとさ....俺達はアイツを追わなきゃならねぇ。とにかく、今は体勢を整えないと始まらない」

「....帰りますか....」


────────────────────


二ヶ月後。


閑静なものとなった、いつもの店内。

犬猿のごとくいがみ合っていた二人がいないと、存外静かなものだ。

”ミスティック・ラボ”による襲撃事件の結果として、”クローバー”は完全崩壊。

生き残ったのはエージェントの向井と、貫井さんが救い出していた、装備開発部の主任であった狩野という男。

吾立は、あの一件から一切の消息を絶っている。

そして楼ヶ埼というクローバーの管理官を務めていた男が、あの襲撃以来行方をくらませているのだそうだ。


向井は従業員として、狩野は経理などを管理するスタッフとして、ロディアに所属する形となった。

束の間の休息を手に入れた俺達は、いつも通りの暮らしをしている。

しかし、それは長くは続かない。


”マスカラーダ”と呼ばれる血魔グループによる被害が続いているらしい。

首謀者は不明だが、人類の根絶を目指し動いているそうだ。


次の目標は、”マスカラーダ”の打倒。あわよくばその吸収。

俺達はずっと、血魔と人間の共存を目指して戦ってきた。

そう簡単に反旗を翻させるわけには、生憎いかない事情がこちらにはある。


戦いの時だ。火蓋は落とされた。

生きるために殺し、それを喰らうのが人たる生き物だ。

そうだろ、雲雀。

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