第24話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】24 ]

坂城の運転でクローバーの本部へ向かう。

血魔である俺達は、まずそんなところへ行くことはない。

自身と同じ存在を狩る組織の本部へ向かうなど、本来は自殺行為であるからだ。


俺は安請け合いでついて来させた三人に事情をすべて話した。

話すうちに三人の表情は真剣になり、雪に至っては感情移入のあまり泣き始めてしまった。


「うぐっ....ひぐっ....向井さんかわいそう....っ!雪絶対頑張るからぁ....!」


「良いな、お前ら。これはあくまで一時的な休戦協定。カタがつけばまた敵同士に戻る」


坂城が念を押して忠告する。

本来敵である相手との休戦協定。

向こうの事情に首を突っ込みすぎるのは野暮だし、何より下手に関わりを持つと様々な縺れが発生する可能性がある。


「....わかってるよ」


そう適当に返答し、沸き起こる疑念を無理矢理に掻き消しながら、車は戦地へ向かう。


────────────────────


行き着いた地は、地獄を体現したような悲惨な様相だった。

清潔感のある白いタイルが敷き詰められていたのだろう床は血と臓物に惨く彩られ、そこら中に死体が積み重なっている。


「........ひでぇな」

「....進みましょう。時間がない」


しばらく進むと、白く照明に照らされた長い廊下のような空間に出る。

ここも変わらず死体の山だ。

しかし、その死体のすべては串刺しにされたような穴が空いていることが確認できる。


「.....この傷は...何でやられたものだ....?」


『コレだよ』


上方から降ってきた声の主によって、その正体はすぐに明かされた。

床を突き破り、赤い茨が生え、俺と絢香の足に絡み付く。


「茨....ッ!?クソッ!解けねぇ!!」

「....ダメだ、私の力でも千切れない!」


『捕獲完了。”プロフェッサー”のため、君達はこっちで遊んでもらうよ』


その血魔はそう告げると、手を上に掲げる。

瞬間、俺達と坂北たちの間に茨を互い違いに無数に生やし、壁を作って分断される。


そして、やがて全身に絡んだ茨を手繰り寄せるように操作し、俺と絢香を連れ去る。


「離せ!!これを外せぇ!!!」


『そう言われて外す奴いないでしょ。大人しくしてれば、危害しか加えないから』


「ふっざけんなァ!!」


────────────────────


ただ見ているまま、吾立と絢香が連れ去られてしまった。

行く手には茨が張り巡らされているため、追うことはできない。


「....お前ら、迂回するぞ。二人を探さなきゃならねェ」


中央ホールに向かうと、また仮面を被った人影が佇んでいる。


「....久家........」


向井が悲しげに呟く。


「....あれが例の、”部下”か。警戒しろ、あの吾立を圧倒してたそうだ」


「......俺がやりますよ、坂城さん」


藍原が前に出る。

その表情には決意のそれが窺える。


「お前....いいのか....」

「いいンす。俺は万年脇役なもんで、このくらいが丁度いい....」


藍原は、その人影に迫り、接近する。

直後、「仮面」をつけた藍原を中心に紅のドームが展開される。

藍原の能力は血液の硬質化。これはその応用だろう。


ドーム越しに藍原の声が聞こえる。


「行ってくださいッ!!俺はここで、こいつの相手をする!!勝率はある....必ず後から追い付く!!!」

「....お前ら聞こえたな。行くぞ」

「ダメだよサカキ!!タケト死んじゃうよ!!」


雪が叫びを上げる。

藍原とは一番仲が良かったからだろう、心配しているのだ。


「........雪、奴を信じてやろうぜ。くよくよしてちゃ、この作戦は進まねぇ」

「でも....!」

「........行くぞ」


雪の手を無理矢理に引き、先に進む。

俺だって、藍原を失いたくない。

ただ、信じるしかなかった。

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