第23話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】23 ]

昼下がりの「ロディア」。

割られたガラスの修繕は終わらず、冷たい風が吹き抜ける空間となってしまった。

吾立 湊は、「ミスティック・ラボ」について思索していた。


俺はミスティック・ラボという名の存在しか知らない。

だから、どう対処していいのかわからない。

相手は何なのか。

血魔なのか、クローバーなのか。

はたまた別の何かなのだろうか。


「何ぼーっとしてるのよ」


絢香が後ろから声をかける。


「....悪い、考え事してた」


思索を続行しようと空返事をするが、答えは見つからない。

すると風と共に、入り口のドアベルが鳴らされると同時に、見たことのない女性が入室する。

「休業」の張り紙が見えなかったのだろうか。


「初めまして」


女性は神妙な面持ちで続ける。


「”クローバー”捜査官、向井 紀と申します。敵意はございませんので、ご安心を」


察した。この女性は俺たちが血魔であることを知っている。


「クローバー....?なぜここに用がある」

「....あなた方の協力が必要なのです」


「協力?血魔を狩っているはずのクローバーが何故、協力を乞い頭を下げる」


坂城が割り込み、訝しんだ表情で言う。


「”ミスティック・ラボ”....あなたなら知っているはずです。吾立さん」

「あぁ、この間うちに襲撃をした男の....」


向井さんの表情が曇る。


「あれは....私の部下です」

「........何?」

「ミスティック・ラボは見境なく人間を実験台とし、人工的に血魔を量産している....極めて危険な存在です。私の部下も、その歯牙にかけられた....!」


悲痛な表情を浮かべ語る向井さんの目には、涙が溜まっていた。


「....どう思う、絢香」


どう思うったって、考えるのは一つだけだ。


「ブッ潰しましょう、私達で」


その瞬間、向井さんの携帯電話に着信が入る。


「....もしもし.....あぁ....何ッ!?」

「....どうしました?」

「....クローバー本部に....襲撃....!?」


しばらく問答が続いたのち、向井さんは通話を切る。


「向井さん、まさか....」

「”ミスティック・ラボ”が仕掛けてきました。複数の血魔による襲撃を受けてると連絡が.....!」


「吾立、雪たち呼んでこい。コイツぁただ事じゃねぇ」

「了解...ッ!」


店を飛び出し、近所のレストランに向かう。

雪たちはそこで今頃昼食を取っているところだろう。

総力戦だ。突然の事態だが、放ってはおけない。


────────────────────


レストランに駆け込み、テーブル席についている三人を見つける。


「おい皆!!今すぐ来いッ!!」


全員、その言葉を我関せずといった表情で聞き流している。


「どうしたのソウくん....いきなりやってきてそんなにぃ~....」


雪は到着したてのパフェを食べながら緩く答える。


「クローバーが、例の”ミスティック・ラボ”に襲撃を受けてる....!」


「へぇ....だから?」


藍原は携帯を弄りながらノールックで返す。

こいつらは緊張感というものがないのか。


「クローバーは一応我々の敵ですから....」


常識人の貫井さんまでこの体たらくである。

こいつらが望むものは、概ね検討はついている。


「....あぁ畜生!!わかった!お代は俺が持ってやるから、早くついてこいッて!!」


全員、そうこなくっちゃという顔で席を立つ。


「こいつら....ァ!!」

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