第22話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】22 ]

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「....よっし、追跡完了っと。奴は以前クローバーが破棄した研究施設にいるっぽい」


流通しているものより数倍大きなコンピューターに似た機械を操作しながら狩野が話す。


「.....行こう。時間がない」

「....だねぇ....」


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施設に到着する。

この建物は地下に建設されたもので、隠された入り口からでないと侵入はできない。

狩野がカードキーを持っていてくれて助かった。


内部は暗くそこら中に埃が舞っており薬品とカビの臭いが立ち込めている。

しばらく進むと、何か大きな実験をするためなのであろう、広い空間に出る。


その中心に積み上げられた瓦礫の山の頂上に、それは鼻唄を奏でながら座っていた。


「....あれか」


『おっ、ようやく来たか。遅かったね』


こちらに手を振りながらヘラヘラと笑いかけるその少年は瓦礫から飛び降りる。


『二人来るとは思わなかったけど、まぁ殺せば同じか!!』


早速奴は血の霧と化しこちらへ突っ込んでくる。


「じゃ、手筈通りによろしく....!」

「....了解」


狩野が”アポカリプス”のスイッチを入れる。

長方形の箱でしかなかったそれは、ガチャガチャと複雑に変形し、最終的には砲のような形状となった。


「____ってぇーーーッ!!!」


狩野の掛け声と共にプラズマ球が発射され、射線上にあったものは融解し、ドロドロの塊となる。

血の霧は計画通りに軌道を翻し、元の実体へと戻る。


『なんだこれッ!?液体なら蒸発させればいいってか!?それじゃあの男の二の舞───』


残った瓦礫を足場に飛び上がり、奴の首めがけ”カマカゼ”を振り下ろす。

慈悲はかけない。ただ怒りと復讐に囚われた、ボロボロの刃だ。

振るうのはこれで最後にしたい。


「うぁあぁあぁぁぁ!!!」


その瞬間、私は鎌を振るう手を止めた。

血魔が、横から割り込んだ何者かに跳ね飛ばされ、地面に叩き付けられる。


『ぐッ....!!離しやがれクソがァ!!実験体ごときが、裏切ってんじゃ....!!ぁあぁぁぁああぁ!!!痛い!!それ刃物ぉ!!死ぬ!!死んじゃうって!!いやだ!!!いたいのは嫌だぁあぁぁあ!!!!』


巻き起こった土煙のお陰で様子は確認できないが、先程の血魔のものと思われる凄まじい絶叫が響いてくる。


煙幕からゆっくりと、出で来る者がいた。

手にもぎ取られた血魔の首を持ち、赤黒い仮面で素顔を隠した青年。


「おいおい何じゃありゃ....」

「........お前....は....」


自然と、正体が理解できた。

ボロボロと崩れ落ちた仮面の下が。


『向井さん。お別れを、言いに来ました』

「久....家....」

『僕は、血魔になった。故に、貴女とはもう関わることができない』


流れ出た涙が頬を伝い落ちる。


『もう戻れなくなってしまったんです』

「嘘....嘘だぁ....っ!」


久家はへたりこむ私の目の前に跪き、流れる涙をそっと拭き取る。


『貴女の想いに、今更気づいたんです。ありがとうございました』

「....久家ぁ....!」

『僕も、貴女が好きでした』


久家の顔に、仮面が再び形成される。


『お別れです。僕は....貴女以外の誰かに殺されたいんです』

「........久....家....」

『泣かないでください。僕は、まだ死んでいませんから』


『もし良ければ、ここを訪ねてください』


久家はそう言い残すと、住所と文章の書かれた紙切れを渡し、煙幕の奥へ消えていった。


「......喫茶....”ロディア”....」


その紙切れには、その喫茶店が複数の血魔によって運営されていること、その血魔たちは人間に対して害意を持っていないこと、そして、その血魔たちと協定を結び”ミスティック・ラボ”を消し去ってほしい。との旨が記されていた。


私はずっと考えてきた。

私は何を考えエージェントとして生きているのだろうか、と。

平和のためなのか、それとも自身の感情に突き動かされるままに戦っているのか。


今踏み切りがついた。

私は、その両方だ。

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