第21話
[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】21 ]
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暮れの「ロディア」。
吾立 湊は店番を頼まれ、客も店員もいない店で一人暇を潰していた。
甲原が起こした血魔発生事件は収束し、取り敢えずの平穏が訪れた。
しかし、自身が血魔でなくなったというわけでもなく、相変わらず俺はここで生活している。
「あーあ....最近鈍ってるなぁ....もしもの時のために訓練なりしておきたいけど....」
次の瞬間、唐突に窓ガラスが粉々に砕かれ、赤黒くうねった仮面をつけた青年が乗り込んでくる。
「なんか来たァアァァアァ!!???」
『....あ?』
青年は頭髪の全てが真っ白で、目は虚ろに血走り、腕を突き破って鋭い鉤爪が生えているのが見える。
身体は痩せ細り、仮面の目に当たる部分の下には「Mystic LAB」の印字が見える。
『あー....悪ィけどこれ、デモンストレーションだから。サンドバッグになれよ、輸血パック!!』
こいつ、血魔だ。それもかなり狂った。
目に見えてわかる。こいつはヤバイ。
ここは店内だが、本気を出さざるを得ない。
「ハハッ、だったら俺も悪ィわ....俺も....」
顔面に手をかざし、「仮面」を呼び出す。
紅い翼が顔を覆い、深紅の仮面を形作る。
「........血魔だからな」
『ふーん....まぁいいや、相手には不足なさそうだなァ....』
「そいつは....どうもッ!!!」
先制。取り出した刀を突き入れる。
「オラァ!!ガラス代弁償しやがれェ!!!」
こちらの攻撃を怠そうにいなしながら、血魔は溜め息をつく。
まだ本気の一片も見せていないらしい。
『つまんねぇ.....ちゃっちゃと潰すか』
瞬間、血魔の背中を中心に、金属質の鋭い刃を持つ羽が生え始める。
それは血魔の腕に生えているものと同一で、無数の刃が重なり合う形で翼を形成している。
『....羽撃け』
その言葉と同時に翼の両端がこちらを向く。
危険を察知し、咄嗟にカウンター裏に飛び込んで身を隠す。
隠れた瞬間、背にしている木のカウンターを通じてドガガガッ、と射出された羽根が突き刺さる衝撃が身体に伝わってくる。
「羽を....発射してる!?」
『ピンポーン』
それはガトリングガンの如く高速で連射されており、飛び出す隙すら存在しない完璧な弾幕だった。
だが、それは並の相手である場合の話だ。
カウンターに手をつき勢いよく飛び出す。
当然無数の羽根はこちらを狙い高速で飛んでくる。
肩に、腹に、羽根が次々と突き刺さる。
だが、どうせ、治る。
「うおぉおぉあぁぁッ!!!」
能力に感付かれる前に、押し切ってやる。
身体に刺さっている羽根には関せず、振り上げた刀を斬り下ろす。
すると、嗤う血魔の指パッチンを合図に羽が畳まれ、自分を覆うように防御の体勢を取った。
羽根はそれぞれが刃として機能するレベルに硬く、それでいて鋭いものだ。
使い込んだなまくらでは、その羽根に傷をつけることは敵わなかった。
甲高い金属音と火花が散り、攻撃はあえなく弾かれる。
「攻防両用ってわけか、その羽根は....」
『説明すんのもダリィ....ウォーミングアップ終わったし、帰るぜ』
翼を消すと、血魔は背を向け、立ち去ろうとする。
「待て、逃げんのかテメェッ!!」
『俺にはやることがあンだよ。お前と違ってな。窓の修理代は、俺を殺ったヤツに払ってもらえ』
そう言い残し、血魔は去っていった。
身体に突き刺さった羽根を引き抜くと、錆のようにグズグズになり消滅した。
顔の仮面を剥がす。
「....”ミスティック・ラボ”....戻ったやつらになんて説明したらいいんだよ....」
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