第17話
[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】17 ]
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祭りから足を退き、二人が別れ、久家は一人暗くなった人気の無い路地を歩いていた。
浴衣から着替えたシャツの裏に、じっとりと汗をかいている。
それほど暑くはなかったのだが、そうさせる理由は語るまでもない。
ふと、背筋に悪寒が走る。
周囲を取り巻く物音。
念のため持参していた”ストライカー”に手をかける。
「血魔制圧用バトルデバイス、”ストライカー”。起動。”クローバー”所属エージェント、久家 文哉を確認。バッテリー残量65%。機能の行使を許可します」
ガシャッと展開する音が響くのを合図にしたかのように、物陰から飛び出してくる者がいた。
それはぼろを纏った、小柄な少年だった。
顔は仮面に覆われ見えないが、背のマントには「Mystic LAB」の印字が入っている。
手にはカッターナイフを模したような大型の刃物が握られている。
あの特異な形状。間違いなく”クローバー”装備開発部のものだ。
『道に迷っているのかなァ~?四つ葉さんよォ....』
「何者だ....血魔か?」
『その通ォオォォォオォりィィ!!!』
間髪入れず、その血魔は剣を振り上げる。
ストライカーをかざして受け止めるが、体格の割にやたらと攻撃が重い。
激しい金属音を立て、火花が散る。
『ヒャァァハハハハハハハハハァ!!!』
全く間を開けず、凄まじい速度で剣を振るい続ける。
反撃の隙が全く生まれない。
強引に振るわれる刃の合間を縫い、ストライカーを突き入れ、レバーを下ろす。
「”ストライカー”、荷電モード起動。バッテリー残り60%。慎重な運用を推奨します」
バチバチと唸る雷光にたじろぎ、相手は少しだけ体勢を崩す。
その隙を逃さず、がら空きになった脇腹に全霊の力を込めてストライカーを叩き付ける。
「砕けろぉおぉぉぉッ!!!」
骨を確かに粉砕した感触。手応えありだ。
後方へ吹き飛ばし、地面に数回バウンドして止まる。
荒くなった息を整え、連絡用のインカムを起動し、向井さんに通信をかける。
その瞬間、インカムのつけられていた耳が、背後からスッパリと切り落とされる。
「........ッッ!!!ぁあぁぁあぁ!!!!」
『ダメじゃん、余所見してちゃ!!ギャハハハハ!!!』
確かに前方に吹っ飛ばしたはずなのに、何故背後から攻撃が来る?
その疑問は、眼前の光景によって解した。
血魔が、血の霧と化し、そこら中に散っている。
その霧は道の中心に集まると、また先程と同じ少年の姿が現れる。
「霧化....しただと...!?」
『ご名答。俺がてめぇを斬ったのは後ろの排水溝からさ。見事な手口だったろ?ハハハ!!』
完全に意表を突かれてしまった。
堪え難い激痛が走る。ボタボタと血の垂れる耳を押さえる。
地面に落下したインカムから微かに声が漏れ出ているのが聞こえてくる。
呼び出しに応答したのであろう、焦っている向井さんの声だ。
位置座標は向こうに伝わっているはずだ。
待っていればじきに応援が来るだろう。
ここで死のうが、それまで。
こんな仕事をしているのだから仕方がない。
そう自分に言い聞かせ、電光の迸るストライカーを塞がっていない左手で構え直した。
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