第11話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】11 ]

吸っていた煙草を消し、坂城は唐突に真剣な面持ちになる。


「アイツの能力が略奪だっていうのは、蓮の奴から聞いてるか?」

「....あぁ。遺していったメモにそう書いてあったよ」

「アイツ、お前に斬られる前、能力が使えないと喚いていただろ」


確かにそうだ。いきなり能力が使えなくなるなんておかしいと思っていた。


「使用不能に陥った原因は、蓮の血を吸ったことにある」

「.....どういうことだ」

「蓮は、血魔として生まれてから一切の能力を持っていなかった。と言っていたが、実は能力があった」


「それは、自身の血を吸った血魔の能力を永久に失わせる能力だ」

「奴は蓮を殺った後、蓮の血を吸った。そして、能力が発動し、奴の力は丸ごと消え去ったって訳さ」


「蓮は”クローバー”に所属する腕利きのエージェントだった。戦闘にも長けていたし、血魔に血を吸われることもなかったおかげで、今の今まで能力の正体が判明しなかった...」

「つまり....」

「アイツの死は無駄ではなかったってことだ。奴は過去に血の剣を作り出す能力の他にも洗脳能力やら血液限定の念力やら、記憶操作なんかを奪ってたし、まともに相手をしたならまず勝てなかった。高速再生持ちのお前でもな」


「あいつなりに、妹に手ェ出されたのが頭に来てたんだろうよ。だから爪痕を残す賭けに出た。ダミーの爆弾をブラフにして、敗北を装って自分の血を吸わせるためにな」


「.......」


俺は言葉を詰まらせる。


ふと、こちらへ歩いてくる足音が耳に入る。

絢香だ。ドレスを着替え、いつもの制服に着替えている。


「兄貴は....どうなったの...」

「聞いてただろ。奴の動きを止める代わりに死んだ」


不安そうな表情を浮かべる絢香に、ぶっきらぼうに、吐き捨てるように坂城は伝える。


「おいッ!そんなにあっさり言わなくてもいいだろ!」

「奴が死んだことで今まで力で誤魔化してきた記憶が全部戻って来てんだ....嫌でも事実を知る羽目になる。俺が言おうが一緒だ」


「過ぎたことは過ぎたこと。いくら泣こうが喚こうが、蓮は帰ってこねぇさ。絢香ちゃん、メソメソしてるよかお前が笑ってた方が、蓮は嬉しいんじゃないかなァ」

「........うん」


坂城は人差し指を立て、話をいきなり切り替えてある提案を立てる。


「というわけで、だ。俺も常連客。この店がこのまま無くなるのは悲しいことだ。そこで、この店の復興をここに宣言しようと思う!」

「どういうわけだよ....」


坂城がパンパンと手を二度叩くと、店のドアを開けて複数名の人間が入ってくる。

無邪気に笑う少女、ガラの悪そうな青年。柔和な笑みを浮かべる老紳士。


「えっ、誰だ....?」

「俺の仲間たちだ。信用に足る人間であることは俺が保証すんぜ」


坂城が話すには、今後は坂城が店長を務め、俺達は従業員として働くことになった。

昼は喫茶店、夜はバーという二面性を持つ店になるのだという。


「さぁスタッフ共、仕事だ仕事!色々運び込んだりすっから手伝えよ!」


流れに流れて歩んできた、俺の人生だ。

ここでようやく出発点というのなら受け入れよう。

初めて見る絢香の笑顔。

この笑顔を守れるのならば、俺はいかなる労苦をも惜しまない。

さらば日常よ、退屈で愛すべき日常よ。

俺は、歩み始めたんだ。【人物】


喫茶「ロディア」メンバー


”血の回帰(ブラッドウロボロス)”

吾立 湊(あがた そう)

「ロディア」で働く青年。ひょんなことから血魔となり、能力をてにした。

能力:肉体の再生。

仮面解放:肉体の即時再生。


”ハンニャ”

雲雀 絢香(ひばり あやか)

「ロディア」で働く少女。死亡した兄、雲雀 蓮の遺志を継ぎ、人々を守っている。

能力:運動能力超過。


”雲散霧消(フラットライン)”

雲雀 蓮(ひばり れん)

血魔対策特務機関”クローバー”の一員であった、絢香の兄。陰謀を止めるため、自身を犠牲にして阻止に助力した。

能力:能力を消す能力。


”サソリ”

坂城 颯介(さかき そうすけ)

「ロディア」新店長。適当な性格をしているが、仲間想いのリーダー。

能力:腰の辺りから伸びる、蠍の尾のような先端に猛毒を含む毒針を持つ器官。

毒は血が変質したもので、尾はそれを有効に活用するための進化の結果。

「仮面」の習得者で、精神への影響を及ぼさずに能力を強化することができる。


”ヴォラシティ”

甲原 雪(かんばら ゆき)

坂城が連れてきた血魔の一人。無邪気な性格で子供らしくよくはしゃぐ。大量の血を欲する傾向にある。

甲原 深怜が能力の研究過程で生んだ子で、生まれてすぐに深怜の陰謀にいち早く気づいた坂城が引き取ったため、母親である深怜の顔を知らないまま育った。

能力:身体の至るところから出現させることのできる、ヒルのような吸血器官。

対象の水分ごと吸い尽くすため、死因は失血に留まらない。


”血の献身(プロテクトブラッド)”

藍原 武人(あいはら たけと)

坂城が連れてきた血魔の一人。その不良のような厳つい見た目に反して特技は料理で、その腕はレストランレベルだと評される。

能力:血を金属のように硬質化させ盾として用いる能力。腕に纏わせることで殴打用のガントレットとしても使う。

能力の燃費が悪く、金属バットやその他装備を用いて戦うことが多い。

「仮面」の習得者。


”迷彩(カメレオブラッド)”

貫井 辰紀(ぬくい たつき)

坂城が連れてきた血魔の一人。柔らかな印象を受ける老紳士で、元バーテンダーである経歴を活かし夜の、バーとなったロディアではマスターを務める。

能力:自身の血を変色させる能力。血を浴びて発動することで自身の姿を風景に完全に溶け込ませることができる。


”略奪者(マーダラー)”

甲原 深怜(かんばら みさと)

「ロディア」元マスター。その素性は自身の血を無差別な人間にばらまき、自身の僕を従え国家の転覆を企んでいたテロリスト。

吾立の一刀によって殺害された。

能力:能力の奪取。これまでに奪った能力は、血剣の生成能力、精神、記憶操作、血液のみに作用する念力。

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