第9話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】9 ]

指のかけられたスイッチを押し込む。が。


「....起爆...しねぇ....!?」


『....ぷっ、あっははははははっ!!あははははははは!!!』


あーあ最悪だ。

まさか人生最大の失敗が最期に訪れるとは、なんか俺らしいというか。


『あぁ面白い!やっちゃったねぇ雲雀!』


ベストを解除し、床に投げ捨てる。

つくづくつまらねぇ人生だった。

一瞬でいいから、もう一度、”妹”と話したかったなぁ。


「はぁ...クソ...」


『それじゃあ、終わりね。雲雀』


手に持つ剣で、腹を貫かれる。

最早抵抗の意志すらない。


「へへっ...死ぬときってこんななんだなァ...勉強になったわ...」


『減らず口を叩く気力だけはあるのね』


「当たり前だろ...兄貴がビシッとしねぇで、どうすんだ...!」


『泣かせる兄妹愛ね。反吐が出ちゃう』


引き抜かれた剣が、再び振りかざされ、今度は首へと向かう。

首が、切り落とされる。


────────────────────


「....蓮、どうしたんだろうな」


不安を抱えながら、店への道を歩く。

手にはスイーツ有名店の袋。絢香への土産として買ったものだ。

公園の横を通りがかり、立ち寄る。


ベンチに袋を置き、刀の入った長袋を開封する。

中にはよく手入れされた日本刀と、文章の綴られた一枚のメモ用紙。


────────────────────


吾立。前提として伝えるが、お前がこれを読んでるなら俺はとっくに死んでる。

俺がずっと捜査してきた血魔の以上発生事件の犯人は、あの”マスター”だ。

奴は血魔の能力を奪い取る力を持ち、奪った力のうちには他者の精神に干渉し操るものも含まれるはずだ。俺の妹も、操られている。

ずっと前からな。

俺は賭けに出る。これを読んだら、妹のところにダッシュで向かえ。アイツが殺されるかもしれない。

奴が俺の血を吸っていてくれると助かるんだが。まぁいいさ。お前はお前のしたいようにしろ。見て見ぬふりをして逃げるのも、俺としては間違っていないと思うよ。

じゃあな。妹を頼む。


────────────────────


「嘘だろ...絢香ッ!!」


袋を引っ付かんで走り出した。

向かうはもちろん、絢香のいるロディア。

間に合う。間に合わなければいけない。

逃げるなんてできるか。ここまで来て。


店に着いた。

走ってきた勢いのまま扉を蹴り開け、店内を探す。


「絢香ーーッ!!どこにいる!!」


返事も、物音もしない。

探し回っているうちに、絢香の部屋の前に行き着いた。

本人から入るなときつく言われていたために覗いたことすらなかったが、今はそんなことは気にしていられない。


ドアを開けると、まず飛び込んできたのは風だった。

風にあおられ四方八方へと靡くカーテン。

粉々に割られ床に散らばっている窓ガラス。


「クッソがぁあぁぁぁッ!!!!」


叫びを上げる。

駐車場に飛び出し、停めておいたスクーターに跨がりエンジンをかける。

場所はおおよそ検討はついている。

犯人は現場に戻ってくるというからな。


二度目だ。この廃ビルに来るのは。

刀をきつく握り、ビルへと足を踏み入れる。


『まるで勇者ね。吾立くん』

「甲原ァアァァァァアァ!!!!」


あの時のように。

二度も経験しているのだからわかる。

赤い羽根が顔を覆っていく。


「グギィエェァァァァアァァッ!!!!」


『出たわね。うふふっ、こちらも本気でいこうかしらぁ?』


甲原の顔を赤い、小さな六角形が覆っていく。見覚えがある。

あの夜、俺を襲ったアイツの覆面だ。


『楽しくなってきたわね。本気で戦うのは久しぶり♪』


「......」


殺す。殺す殺す殺す殺す。

頭を埋め尽くすのは、黒々しい殺意だけだ。

甲原の周囲に、五本の剣が浮かび上がる。

それは血と同じ色をした、鋭い長剣だった。


宙を滑るようにこちらへ真っ直ぐ剣が飛んでくる。

念力でも使っているのかわからないが、俺には関係のないことだ。


『ほらほらァ!どんどん行くよぉ!!?』


飛来する数本を弾くが、残る一本に斬りつけられる。

それを数秒のうちに何度も繰り返した。

数とスピードのせいで全く捌ききれない。

傷こそ即座に再生するが、一度も血を摂っていない俺にはそれにも流石に限界がある。


すると、全ての剣が引っ込んだかと思えば、四本同時に飛んでくる。

両手両足の端に突き刺さり、磔にされる形でコンクリートの壁に留められ、衝撃で刀を取り落としてしまう。


『ふふっ、チェックメイト、かしら?』

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