第8話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】8 ]

「邪魔をするな」


        「奪ってやる」


     「部外者風情が」


           「力は本物だ」


  「大人しく引き下がれ」


    「お前には何も変えられない」


  ────────────────


「......ッ...」


ズキズキと痛む頭を押さえ付けながら起き上がる。

同じソファーの上で悪夢から目覚める。

この頭痛は何なんだろうか。

血魔となる以前まではこんなことはなかったし、意識を失う度にこの囁き声がやってくる。


「起きたか、吾立。具合はどうだ」

「まぁぼちぼち...」

「例の暴走を起こしてたんでな。妹をブッ飛ばす前に俺がお前をブッ飛ばした」

「は、はぁ...」

「やはり仮面を割れば暴走は止まるらしい。まぁそれはいいとして、だ。外で話そう」


蓮の車に乗り込み、エンジンが唸り、走り出す。

ナビは、数キロ離れた廃墟となったビルを指し示していた。

到着するまでの間、蓮は一言たりとも話さなかった。


廃ビルに着くと、蓮は神妙な面持ちで語り始めた。


「単刀直入に言おう。お前は、あの”マスター”についてどう思う」

「えっ、どうって...普通に綺麗な人だなぁと思うけどな...」

「.....そうか。これを渡しておこう」


と、蓮は背負っていた長袋を手渡す。

持った覚えのある重量感。


「日本刀。真剣だ。この間のはお前がヤツの頭蓋ごと粉々にしちまったんでな。丁重に扱えよ」

「...了解」

「俺はここに残っていく。先に戻っていてくれないか。交通費はやる」


続けて、蓮はポケットから財布を取り出し、そのままこちらに寄越す。


「金はそこそこ入ってるから、妹にウマイもんでも買っていってやれ」

「.......」

「聞くな。とっとと行け」

「......ああ」


渡された財布をポケットに突っ込み、ビルを後にする。

外を眺めながら煙草をふかす蓮の姿は、どこか寂しそうに見えた。


────────────────────


やることはやった。

吾立も、妹も、これで守れるはずだ。

後悔はない。

無数の足音が、迫る。


「....やっぱり来たかよ、マスター。いや、甲原 深怜」


『当たり前じゃない。貴方は知りすぎた。だから消さなきゃいけないの』


「ムサイ連中がぞろぞろと。よくもまぁこれだけの数捕まえたもんだ」


眼前に無数の、ローブを着込んだ人間がいる。おそらくこの全てが血魔だろう。

数は数十、百を超えるかもしれない。


「まぁ少し話そうや。死ぬ前くらい」


『うふふっ、そうね』


いつものように微笑みかける。

俺にはその面が、悪魔のほくそ笑みにしか見えない。


「じゃ、俺の推理を話そう。最近妙に血魔が増えてきたと思ってたんだ。あれはお前の仕業だな?」


『えぇ、その通り』


「あの自爆も、お前が仕向けたものだな」


『合っているわ』


「....最後に、お前の能力はなんだ」


『私の能力?血を飲んだ人間を治癒させる能力よ?』


「この期に及んでシラ切ってんじゃねぇ。治癒は確かにお前の能力だ。だが、それだけじゃねぇだろう」


『流石の洞察力ね、蓮。私の能力は、略奪』


予想通りだ。全くもってドンピシャだったよ、クソッタレ。


『血を吸った血魔の能力を奪い取る。それが私の力。当たっていたかしら?』


「あぁ、生憎の満点だよ。さて、ここで交渉だクソ野郎。俺が死ぬ代わりに妹にかけた能力を解除しろ。そして、二度とあの二人に近づくな」


『それは無理な相談ね。私は偶然生まれたあの力を摘み取らないといけない。あの男も同様にね』


「交渉決裂。だな」


コートを脱ぎ捨てる。

暗く冷めた空間に響き渡る電子音。

手に握られたスイッチ。

腹に巻かれた、ダイナマイト。


「見えるよな、これが」


『私を脅そうっていうのかしら?そんなオモチャで』


「違うね。俺がしたいのは、自爆だ。お前がさせたようにな」


『.......クソが....』


「逃げたけりゃ逃げてみな。特注のもんなんでな、瞬間移動なりしなければ吹き飛ぶぜ」


『...雲雀ぃぃいぃぃっ!!!』


「あばよ」

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