第5話
[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】5 ]
「これは...ロディアのレシート...?何故こいつが持ってるんだ...しかもそこそこ経っている...」
思い出したように、通信機のスイッチを入れ直す。
「雲雀さん、なんで通信切っちゃうんすか!」
「あぁすまん。だが目標は排除し───」
傍らに転がる、奴の身体を見ると、ブクブクと脈動し、何倍にも膨れ上がっていた。
「オイオイなんじゃこりゃ...」
「雲雀さん!!今すぐそこから離れてッ!!」
「あ、あぁ了解...」
フロアを二階層ほど駆け降りた辺りで、元いたフロアからドチャッという破裂音が聞こえる。
「おい茅崎、アレなんだ」
「...直感です。さっきの場所に戻ってみてください」
言われるがまま引き返す。
「......なんだ、コレは」
フロア全体が真っ赤に染まり、壁面や床には大量のアンプルが散らばっている。
それは注射器のような機構で、衝撃で中身が噴射される仕組みになっているようだ。
「なるほど、奴は自爆したのか。この血の飛び散り様、そして散乱する空の注射器...俺の感染を狙ったのか...?それにしてもなんの意味が...」
「とりあえず、任務は完了です...帰投してください」
「.....何か解せんな。了解」
くしゃくしゃのレシートをポケットに突っこみ、現場を後にする。
疑念と猜疑心が渦巻く心を鎮めるように、警棒を畳んだ。
────────────────────
「ここか、例の血魔狩りがいるってのは...」
「油断だけはしないでね。後始末面倒だから」
「死なねェよ。燃料が続く限りな」
「そうね。あとこれ」
麻で出来た、解れた袋を渡される。
被るとちょうど目の部分に来るように穴が開けられている。
「なんだこれ、被れってか?」
「血魔狩りに顔覚えられたら面倒でしょ?念のため隠しといて」
「....わかった、わかったけど...」
「ん?」
「なんでお前はちゃんとした覆面があるのに俺だけこんなボロい頭陀袋なんだ!?」
既に般若の面を着け、臨戦態勢に入りかけていた絢香に疑問をぶつける。
「しょうがないでしょ、ある面がこれしかなかったの」
「まぁいいけどさ...今度もっとマシなのくれよ...」
「わかったから、さっさと行くわよ」
頭髪を掻きながら、目標であった廃屋へと入り込む。
袋を剥ぎ取り、投げ捨てる。
と、同時に違和感がやってきた。
すぐそこに投げ捨てたはずの袋がなかった。
「....え?」
「吾立...今袋、どこにやった?」
「そこに投げたんだけど...」
よく目を凝らすと、床にはさっきの袋と同じ色をしたドロドロがこびりついていた。
袋が、溶けていた。
「溶けてるッ!?」
見渡せば、床のみならず天井に及ぶまで、赤い、沸騰したように泡立つ不可思議な血が撒き散らされ、それが滴った部分は硫酸でも垂らしたようにシューシューと音を立てながら溶けている。
「...酸、ね。これは........」
細かく推理する間もなく、家屋全体に高らかな哄笑が響き渡る。
それは明らかな悪意に満ちた嘲笑にも似た、正確に精神を逆撫でするものだった。
『ヒャハハハハハハァ!!ようこそ血魔君たち、私の館へェ!!居間へ来たまえ、君達のその哀れな人生を終わらせてあげるからさァ!!』
「終わるのはテメェだろうが...行こうぜ、ヒバリ」
「........」
「...どうした」
「.....何でもない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます