第3話
[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】3 ]
「無理だ」
「お前はその程度だ」
「誰も守れやしない」
「死ねばいい」
「消えてしまえ」
「やめろ」
────────────────
「うわぁぁあぁッ!!!」
絶叫し、悪夢から醒める。
首筋を伝う冷や汗が、悪夢は続いていると囁いている。
「...ん、ようやく起きた。寝起きが悪いのね」
「なんで君が...!?というかここは!?」
「...落ち着きなさいよ...ここは喫茶店「ロディア」。私の家」
「あ、あぁ...で、俺はなんで喫茶店にいるんだよ...」
「あんたが暴走して襲い掛かってきたからでしょ!」
「....へ?」
話が飲み込めなさすぎる。
彼女から血の入ったアンプルを渡され、直感の赴くままに飲んでみた所までは覚えている。のだが、そこからここで目覚めるまで全く、何も覚えていない。
手には血錆びがこびりつき、何故か顔が若干痛い。
「はぁ...いいわ、説明してあげる」
目の前にコーヒーが差し出され、俺は彼女からすべてを聞いた。
この世には、”血魔”と呼ばれる異質な能力を持った人間が多数存在すること。
それら血魔は、人間の血を生命の源とし、行使する異能力のエネルギーとしていること。
そして、俺もその一人となったこと。
しかし、俺が暴走したらしい際に出現したという血の仮面の正体はわからないという。
「あんたの能力は、恐らく”高速再生”。それもかなり高位の。私の攻撃を受けても一瞬で再生してた」
「君の”運動能力超過”をもってしても、か?」
「そ。だから正直ビビった」
「....で、俺は一生人の血を摂り続けないとダメなのかよ」
「まぁね。それじゃ続き」
血魔は、人の血のみをエネルギーとし、通常の食事や血魔同士の血からはほとんど力を得られない。
しかし、血魔であっても同族にエネルギーを与えられる血を持つ能力者が存在し、ここのマスターがその能力者なのだそうだ。
人を傷つけ血を啜ることに抵抗のある彼女は、そのマスターに世話になっているという。
「そういや、君の名前を聞いてなかった」
「....雲雀。雲雀 絢香(ひばり あやか)」
「俺は吾立 湊。よろしく、ヒバリ」
「.....あんたは血を吸わなくても生きていけそうね」
「ん、そりゃまた何でだ」
「あんたの再生、やたら燃費が良いのよ。あれだけ高レベルの再生をしても全くバテてなかった」
「...そりゃどーも。ま、万が一戦う羽目になろうが相手は能力を除けば普通の人間と大差ねぇんだろ?」
「....まさかあんた、戦うつもり?」
「当たり前じゃん、もう”同族”なんだろ?俺は。覚悟なら決まってる。暇人舐めんなよ」
「........そう」
そこに割り込むように、扉を開けて男が入ってくる。
濃紺のスーツにベージュのコートを羽織った長身の若い男。
その格好は、まさにベテランの刑事といった風情だった。
「起きたか。その無愛想女から話は聞いたかい」
「いきなり入ってきて何よ...ブッ飛ばすわよ?あ、コレは私の兄貴」
「雲雀 蓮(ひばり れん)という。よろしく頼む、吾立」
「お、おう....」
差し出された握手に応じる。
「折角だ、俺の素性も教えておこう。この国には、血魔の台頭を恐れた政府が、”クローバー”という組織を秘密裏に設立した」
「.....」
「それは、血魔を狩っている組織なのだそうだ。そして俺は、そこの所属者だ」
思わずソファーから身を乗り出す。
「まぁそう構えるな。俺がその組織にまともに従っているのなら、お前なんかとっくに殺しているさ」
「そ、そうか....そうだよな...」
「だから、見つかるなよっていう忠告だ。妹は俺が匿っているから問題ないが、お前がやつらに見つかったなら、助けられる保証はしないぞ」
「あぁ、わかった...」
「俺はお前をどうこうしようという考えはない。妹が人助けなんて、珍しい事じゃないからな。じゃあ、俺は仕事に戻るよ」
絢香が怪訝な目で蓮を一瞥する。
「...殺してないでしょうね」
「当たり前だろ。お前のためだ、これでも兄貴なんだぜ、俺は」
「....行ってらっしゃい」
「あぁ」
蓮を見送り、冷めたコーヒーを飲み干す。
「で、あんたはどうするの?」
「...ついてくよ。言っただろ、俺は暇なんだ。俺が退屈しねぇなら、付き合う」
「....勝手にしなさいよ」
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