第2話

[ 【βρυκόλακας -ヴリコラカス- 】2 ]

夜。

日はとっくに沈みきった秋の夜だ。

静まり返ったシャッター街で、私は化け物と相対している。

同族で争うのは気が進まないけど、私は敵と見なせば攻撃する性分だから仕方がない。


あの男、もう逃げているだろうか。

気が弱いようには見えなかったし、とりあえずあれでよかった。

逃げたら逃げたで殺すけど。


「お前...何?」


私の攻撃を受け倒れ伏せたその化け物に問いかける。


『...世界を滅ぼす者だよ』

「へぇ。そりゃ大層だね。それであの男を襲ったわけ?」

『アレはただの腹拵え。それに、人間がいくラ死のうが君には関係のない事だ』

「....そうね、少なくとも───」


背後の気配に気づき、ゾッとした。

瘴気。そう呼ぶのが正しい、禍々しい何かが背後を漂っている。

咄嗟に振り向く。


「..........」


”何か”がいる。

鉄パイプを握り締め、真っ赤な仮面を着けた何かが、こちらに歩いてくる。

その姿は私が先刻失敬した化け物とは比較にならない、規格外の何かを感じさせた。


「....なッ....!?」

『あララ、君、大変な事をしてしまったミたいだねぇ』


「.....ギギィ....ギャガガガガガガガァァァァァァァァァ!!!」


こちらに振り上げられた鉄パイプを受け止める。

どうやら、力は常人のそれであるようだ。

横にいなし、首に手刀を突き入れる。

普通ならば大穴を開け鮮血を垂れ流すことになるところが、ソイツは一滴の血も流すことなく、ほんの少しの傷しか与えられなかった。

すぐにその僅かな傷さえ、みるみるうちに癒えてしまう。


「...はぁ...何なのよ次から次へと!」

『素晴ラしい、全く驚異的だよ』


一瞬の隙を突き、饒舌な方の化け物は天井のガラスを突き破り逃走する。

惜しいが、この際アイツはどうでもいい。今は、目の前のイレギュラーを排除しなければならない。


「グギャッ....ギャギィ....ア...ッ!!」


「.....何者...?まさか....」


間髪入れずにこちらへ放たれた拳を躱し、カウンター気味に顔面の仮面目掛けてフックを入れる。


すると、案外仮面は脆く、発泡スチロールのように簡単に砕けてしまった。

仮面の下は、やはり見たことのある顔だった。


「やっぱり...」


倒れた仮面の正体、それは先程アンプルを渡していたあの男だった。

男は気を失ってはいるが、やはり一つの傷も受けていない。

携帯電話を取り出し、素早く知る番号に掛ける。


「....もしもし。説明は後でする。車出して。迎えが要るの」


つんざく抗議の怒号を振り切るように通話を切る。

こんなことは初めてだった。

コイツは、放っては置けなさそうだ。

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