『Bone Clown begins to dance―――――』

 焦土と化した大地――――――そこには、無数の骨が生えている。


 巨大な骨の一つに腰かけるは、ピエロの恰好をした少年。


 クルクルと、手元に持っていた髑髏を回して遊び、飽きたのかどこかへ放り投げる。


 焦土と化した大地、死してなお燃え盛る身体を持つ、蜥蜴に似た爬虫類のような魔獣が数百匹。


 それらは、一様にして骨に胴体を貫かれていた。


 紫の混じった赤黒い血が地面に滴り落ちる。


 じゅっ――――――と、地面に落ちた血の殆どは蒸発する。それだけで、この大地がどれだけ高温の熱を帯びているのか伺えるというもの。


 しかし、道化の少年は躊躇なく地面に飛び降りる。靴底が焼かれる様を想像する。だが・・・・少年の靴は一向に焼ける気配を見せない。


 道化の少年は骨に貫かれた魔獣の様を、まるで博物館で見物でもするかのように、一体一体、見回しながら歩いていく。



「はっは♪似てるのに全然違う、相変わらず面白いね♥」



 道化の少年は無邪気にケタケタと笑う。自分が殺したモノだというのに。


 少年の無邪気に笑う様は、墓標のような地獄のような景色と相反しているようで、とても不気味だった。



「ああ、早くスティーブに会いたいよ、僕は寂しがり屋なんだ♣」



 ふと、道化の少年は立ち止まった。



「あれ・・・・?スティーブって誰だっけ♦」



 少し考えるように、腕を組んで片手に顎を乗せる。身体を揺らして何かを思い出そうとして、道化の少年は両手を叩いて目を見開いた。



「そうだ!そうだ!そうだった!スティーブは僕が殺したんだった♠」



 無邪気に、道化の少年は恐ろしい事を平気で口にした。



「そうだよ、スティーブって敵側の相棒の偽名だったよ♦殺人クランに長いこと潜入してたから、忘れてたよ!」



 焦土の大地、水分が存在しないと錯覚させる程の熱気に満ちた環境で、道化の少年は汗をかく事なく、それどころか熱がる様子を一つとして見せない。


 それが、異様に少年を監視する存在を苛立たせる。



「(もう、もう殺っていいよな?いいよな?)」



 熱さに苛立ち、裏切り者の無邪気な様を見て、その存在は殺意をふつふつと募らせる。


 ピタリと、道化の少年が歩く足を止めた。


 そして、グリンっと。何の感情も伺えない闇を塗りたくったような目で、己を監視する者の方向へと顔を向けた。



「(き、気づかれた・・・!?いや、俺の隠密は完璧だ。いくらあの化け物でも俺を見つけるなんて―――――)」


「ねえねえ?なんで隠れてるの?早く出ておいでよ♪遊ぼうよ♥」



 とある岩陰、焦土の大地の景色に溶け込む、赤銅色の岩から、小太りの男が姿を現した。



「・・・なんでわかった?」



 男の発言に、道化の少年はキョトンとした顔で小太りの男の方を見る。


 次いで、道化の少年は大きな声で笑いだした。



「なにがおかしい!!」



 小太りの男が顔を真っ赤にして、怒声を上げる。


 道化の少年は笑うのをやめて、その目に浮かんだ涙を拭う。



「だって、殺気が駄々洩れになってるよ?そんなの、見つけてくださいって言ってるようなものだよ♣」



 道化の少年は小太りの男に向けて、馬鹿にしたような笑みを向ける。それが挑発だという事は、小太りの男も理解できていた。



「殺す!!」



 明確な殺意を言葉に表して、小太りの男はその姿を異形へと変異させていく。


 筋肉が盛り上がり、皮膚を黒みがかった緑色の鱗が覆いつくす。道化の少年は、小太りの男が変異していく様を、面白そうに見ていた。


 やがて変異が完了する。一分もかからぬ内に、小太りの男は異形へと移り変わっていた。



「GORYURYURYURURURU・・・・!」


「わーお♥」



 道化の少年は小さく拍手をする。小太りの男が変異した姿は、とても人間とは思えないものだった。


 ワニの皮を被っているような、人間の部分は黒く染まっていて、光沢を持っている。見るからに硬そうだ。


 ワニ人間へと変異した男は、嘲笑の声を上げるでもなく、ひたすらに殺意と憤怒と憎悪に満ちた唸り声を上げる。



「VOO!!スティーブの仇だぁ!!」



 ワニ人間と化した男は、顔を覆うワニの大顎を開けて、道化の少年へと突進していく。


 ふと、男の脳裏に自身が属するクランの幹部の声がよぎった。



『お前では勝てないだろうからな。奇襲を仕掛けて、不意を打ち、生け捕りにして連れて来い』



 男は目を血走らせて、自分に指示を出した幹部へと反論するように声を荒げた。



「知った事かああああ!!!」



 男の突進を、道化の少年は余裕を持って上に飛んで躱す。



「あはは♪いいね、君。楽しめそうだよ♥」


「GYRUOOO!!」



 男が道化の少年が避けた先へと尻尾を振るう。しかし、またしても避けられた。


 苛立ちに唸り声を上げて、男は地団駄を踏む。



 それからは、男が攻撃を仕掛けて、道化の少年が避けての繰り返し。


 男の攻撃は一向に道化の少年に当たる気配がない。



「ぜえ・・・ぜえ・・・」


「あれ?あれ?あれあれあれれ?もう終わりなの♦」



 疲れ果てた様子の男は、身体中から汗を流す。その度に焦土の大地からは落ちた汗で蒸気があがり、それがなお一層、男の身体の熱を上昇させていく。



「(なんで、こいつは、あんなに涼し気なんだ・・・)」



 男は疑問で頭を一杯にする。だが、徐々に道化の少年への恐怖が蘇るように、その目を怯えたものに変えていった。


 自分を恐怖の対象として見始めた男に、道化の少年はふと、その顔から感情を消し去る。



「つまんないな」



 その声は、驚く程に冷え切っていた。



「もう、いいや」



 その瞬間、道化の少年から冷気にも似た気配が立ち上る。



「あ・・・ああ・・・・・!?」



 男の目が完全に恐怖に染まる。獣の本能が男に警報を鳴らしていた。


 逃げろ、さもなくば死ぬぞ、と。


 男は素直にその感情と本能に従い、踵を返してその場から逃げ出そうとした。


 だが、逃げられよう筈もなし。



「壊れろ」



 道化の少年は、片手を突き出して、その手を握り締める。


 その瞬間―――――――――



「!?ひぎゃあああああああああ!!?!?」



 男の全身の骨が砕ける音がして、全身から無数の骨を生やして絶命した。


 赤黒い血と、剥がれ落ちた鱗が地面に落ちる。血の殆どは蒸発し、鱗は焼けて焦げていった。


 道化の少年は、無感情な顔から無邪気な少年の顔へと戻し、自分が殺した男の死体を見る。

 そして、ゾっとする程の笑みを浮かべた。


 純粋な悪意に満ちた顔。殺した者を嘲笑するような、侮蔑するような顔。


 だが、その目だけは笑っていなくて・・・・・。



 道化の少年は踊り出す。くるくると、その場で回って踊り出す。



 ステップを刻み、観客もいない焦土の大地でダンスする。



 そして道化の少年は歌い出す。滑稽な男を嘲笑う歌を。




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