#8 海外進出を見越しています。

浦見「ハロー。浦見みぎりです」

淀川「急にどうした?」

浦見「海外進出を見越した挨拶です」

淀川「気が早いな」

浦見「何事も遅いよりは早い方が良いですからね」

淀川「俺たちは色々と手遅れな気もするけど」

浦見「やらないよりはやった方が良いでしょう」

淀川「そうか? やって後悔は何かしら失ってるけど、やらずに後悔は物損ゼロだぜ?」

浦見「やってしまった人間に、そういう事を言わないで下さい。もう私は、失った事を正当化するしかないんですから」

淀川「……ごめん」

浦見「湿っぽい話はここまで。今日のお便りは、ラジオネーム【モーガン・フリーメン】さんから」

淀川「なぜ複数系?」

浦見「好きな魚を教えて下さい」

淀川「どういう意味の好きだ? 食用? 観賞用?」

浦見「両方お願いします」

淀川「食べ物としては鮭と鮪が好きだな。寿司ネタだと炙りサーモンと中トロ」

浦見「お子様ですね」

淀川「大人も食べるだろ」

浦見「私の理想像と全然違うんです」

淀川「理想の大人は何を食べるんだよ?」

浦見「茄子です」

淀川「魚じゃねぇ……」

浦見「もしくは軟骨の唐揚げです」

淀川「寿司ですらねぇ……」

浦見「この辺りのメニューを即答できるようになって下さい」

淀川「そう言うお前は、何が好きなんだよ」

浦見「スルメイカの干物です」

淀川「……今挙げた三つ、大人っていうかおっさんの好みじゃね?」

浦見「うるさいです。魚のエサにしますよ」

淀川「怖っ」

浦見「さて、次の質問です。観賞用なら何が好きですか?」

淀川「やっぱ熱帯魚かな。グッピーとかネオンテトラとか、派手で見てて飽きない」

浦見「見た目の美しさだけで魚を判断するんですね」

淀川「他に判断材料ないだろ」

浦見「もっと内面を見て下さい」

淀川「魚の内面って何だ? 味か?」

浦見「魚を、己の欲望を満たす道具としか思っていないんですね。最低です」

淀川「お前は二度と魚を食べるな」

浦見「自分が魚を貪るだけでは飽き足らず、私から魚を奪うつもりですか。傍若無人の極みですね」

淀川「傍若無人なのはお前だ」

浦見「しかも超絶美人です」

淀川「自分で言うか?」

浦見「仕方ないでしょう。誰かさんが言ってくれないんですから」

淀川「……何の脈絡もなく言ったら不気味だろ」

浦見「そんなの、貴方には期待していません。脈絡なく、のべつまくなしに言えばいいんです」

淀川「めっちゃ可愛い。最高。大好き。世界で一番愛してる」

浦見「……」

淀川「……おい、何か言えよ。こっちが恥ずかしくなるだろ」

浦見「う、うるさいです。我慢して下さい。私の方が恥ずかしいんですから」

淀川「自分で言わせたんだろ」

浦見「貴方が言ったんでしょう。自分の発言に責任を持って下さい」

淀川「責任転嫁してんじゃねぇ」

浦見「連帯責任です」

淀川「連帯保証人にされた気分だよ」

浦見「判を押す方が悪いんです」

淀川「最低だ……」

浦見「嘆いている暇があったら、この羞恥を何とかして下さい。複利で増えてますよ」

淀川「どうしろと?」

浦見「……私が慣れるまで、言い続けて下さい」


――五分後


淀川「本当に大好きだ」

浦見「……」

淀川「今日も可愛いよ」

浦見「…………」

淀川「ずっと、ずっと、愛してる」

浦見「………………も、もう無理です」

淀川「自己破産しやがった」

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