怪異法録

記憶:『私』に纏わる想い、その断片


 ――認められるか、こんな事が。


 彼女は優しい子であったのだ。聡い子であったのだ。

 悪という言葉から程遠くに位置した、純真無垢な子であったのだ。


 あのような異能を持ちながら、真っ白な人の心を持っている。

 それがどれほど尊い事か、貴様らは理解していなかったのか。


 力だけを見るのではない。より深い、人間としての本質を見定めるべきだった。

 あの子は笑顔を見たかったと言っていたよ。貴様らのような下衆で傲慢な輩の笑顔を、笑い声を聞きたかったと言っていたんだ。


 怪異の血が混ざっていた事が何だという。

 それでもあの子は正道に居たではないか、ただ焼き屠るだけの貴様や覗き見しか出来ない我らよりも、ずっと真っ直ぐに立っていたではないか。


 ……妻も息子も守れず一族の血を絶やした私にとって、彼女は唯一の希望であったのだ。

 異能の類似だけでは無い。

 絶望と喪失の淵に立っていた私に、暖かさを思い出させてくれたのだぞ。


 彼女にどれだけ救われたか、貴様に分かるか?

 そうさ、分かるものかよ。

 老骨である私と違い、貴様にはまだ未来が在る。

 それは彼女にも与えられるべきものだった筈だ。


 そんなにも血が大切か。

 そんなにも外聞が大切か。

 そんなにも貴様は。


 ――――――――。


 ……そうか。ならばもう、良い。何も期待せぬ。


 ここより先は私一人で往く。

 貴様があの子を、そして私を認めなかったように。私もまたこの結末を認めない。


 無駄だと嗤うか、それも良いだろう。

 こちらに近寄らぬならば気にもせん、好きに貶し言を吐くが良い。


 嗚呼、待っておれ。

 私の寿命が尽きるまで、何もかもを懸けてお前の魂を復元してやる。

 金も、手段も、身体も、倫理でさえも。文字通り全てだ。


 策が成るのは遠い遠い未来となるだろう。

 それまでの間に生まれる罪は、皆私が背負うつもりだ。


 そうだとも、そうだとも。

 お前は気にせず眠り続けておれば良い。

 どのような外道に逢おうとも、その一切は覚えんで良い。


 忘れ、惑い、最後に笑え。


 なぁ、私の可愛い可愛い孫娘――――――――さとりの愛遺子めいこや。


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