『異小路』
小話:住宅街近辺に残る噂について
告呂市には、異界へと繋がる道があるという噂がある。
何でも、街に走る何百本という小路の中に一つだけ、この世とは違う場所へと通じているものが存在するというのだ。
その地域に走る道は、幾つもの細い小道が絡まりあった複雑怪奇なものである。
古くから住んでいる住民達から、神聖な場所だと畏れられている土地。幾つか存在するその場所を迂回するように曲がりくねった道筋は、まるで迷路のよう。
子供は勿論、大人でさえ迷子になりそうな代物となっているのだ。
その噂はそれを元にした冗談のような物だったのだろう。
それか、神聖な土地に子供が入らないようにという脅し文句だったか。
どちらにしても真実味の薄い話だった事には変わりない。
……だが、実際に告呂市では、ある期間に限り何人もの行方不明者を出していたという記録がある。
被害者は老若男女分け隔てなく、消えた時間にも規則性は無く。
どの被害者もそれぞれ別の小路に入ったという所までは分かっているのだが、それ以降の足取りが全く掴めないらしい。
そう、消えた人々は全員、入った小路の先で、まるで神隠しにあったかのように忽然と姿を消したのだ。
もしかしたら、消え去った人々は『当たり』の道に入ってしまい、本当に異界へと誘われてしまったのかもしれない――。
住人達の間でそんな噂も流れる中、その事件は何の前触れも無く、始まった時と同じようにいつの間にかぱたりと止まったそうだ。
この世とは別の世界に通じる小路。
それは本当にあるのか、だとしたら何処にあるのか。詳しい事は、何一つとして分からない。
だが、もしあなたが告呂市を訪れ、歩いている道に異変を感じたのならば、それ以上先には進まない方がいいだろう。
行方不明になった者達は、今もまだ見つかっていないのだから。
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