第17話


「こちらデザートになります。よければお召し上がりください。猫ちゃんにはミルクを用意いたしました。」


食べ終わって首を傾げていると、先ほどの女性の店員さんがデザートだと言って白いプルプルしたものをオレの目の前においた。


杏仁豆腐だろうか・・・?


そして女性はノエルの前にミルクをおいた。


「ありがとーなの。美味しそうなミルクなのー。」


ノエルはそう言うとお皿に顔を突っ込んで勢いよくミルクを飲み始めた。


あまりにも豪快に飲むものだから、お皿のまわりにミルクが飛び散っている。


「ノエル、ミルクが飛んでるよ。もうちょっとゆっくり飲んだらどうかな?」


「・・・んー。美味しいの-。とっても美味しいのー。」


ペロペロペロ。


ノエルはオレの言葉に反応してミルクの味の感想を言うが、ミルクを飲むのは止めない。


よっぽど美味しいらしい。


オレはノエルの飲みっぷりに感激しながら自分の前におかれた白いプルプルのデザートにスプーンを入れてみた。


予想どおりぷるぷるとしている。


まるでプリンのようにプルプルしている。


スプーンで一口すくって口の中に入れる前に匂いを嗅いでみる。


「・・・?匂いがしないような気がする。」


おかしい。オレ、嗅覚がおかしくなったのだろうか。


そう思いながらも口に含んでみる。


「・・・ん?」


ほのかに甘みが感じられたがそれだけだ。


コクがないし、味が薄くて自分が何を食べているのかわからない。


ミルクプリンではないようだし、独特の味がする杏仁豆腐でもないようだ。


「お気に召しませんか?」


オレの微妙な表情を見てか店員が問いかけてくる。


「とっても美味しいよー。おかわりが欲しいくらいなのー。」


「え。あっと。ごちそうさまでした。」


ノエルは美味しい美味しいと言って嬉しそうにひげをピーンと張っている。


オレは・・・正直美味しいとは感じられなくて、でも正直に言うことなんてできなくて無難にごちそうさまとだけ伝えた。


「そう、ですよね。やっぱり。」


オレの反応を見て、店員さんは「はぁ・・・。」と小さくため息をついて俯いた。


そして直後にいけないと思ったのか、店員さんは顔をあげると謝罪してきた。


「あ、ごめんなさい。お客様の前でこんな態度をとってしまって。」


「いえ。気にしないでください。オレの態度も悪かったですし。せっかく料理を提供してくださったのにすみません。でも、ノエルはここの料理が気に入ったようです。先ほどのご飯も今のミルクも美味しい美味しいと言って飲んでましたよ。」


オレはノエルが舌鼓を打ちながら料理を食べていたということを伝える。


「そ、そう?」


すると、女性は嬉しそうに目を瞬かせた。


「ええ。それで、お話というのは・・・?」


「ごめんなさいね。忙しいのに引き留めてしまって。」


女性は申し訳なさそうに眉を下げた。


「構いません。それより、私に相談というのは?」


オレがそう言って女性に話の続きを促すと女性は少し考えたそぶりをしてから、意を決したようにオレを見て口を開いた。


「うちのうさぎちゃんに会って話を聞いて欲しいの。」


「・・・うさぎちゃん、ですか?」


うさぎちゃんというのは、動物のうさぎのことだろうか。


それとも、名前がうさぎという名の人だろうか。


いや、でもオレがノエルと話ができることを知って声をかけてきたのだから、人間と会話することができない動物のうさぎということだろうか。


「ええ。うさぎちゃん。もし、よかったら一緒に来てくれないかしら?実際に見てもらいたいの。」


「ええ。わかりました。その前にお会計をお願いできますか?」


どうやら席を離れないといけないようだ。


もしかするとお店からも離れる可能性があるかもしれないと思い、先に会計を済ませようとする。


しかし、


「いいのよ。話を聞いて欲しいとわがままを言っているのは私なんだから、今日はお代はいらないわ。」


「いえ。でも、こちらに食事をしに来たのはオレの方ですし・・・。」


「いいの。いいの。それより一緒に来てくれないかしら?」


「え、あ、はい。ではお言葉に甘えて・・・。」


女性は折れそうになかったので、オレの方が折れた。


食費が浮いて少しラッキーだ。


オレは席を立つとノエルを胸に抱える。


「んー。カナタ抱っこ-。」


ノエルは甘えるようにオレにすり寄ってきた。


可愛い。


「っていうか、ノエル。もう抱っこしてるから。」


オレはそう言って、ノエルの頭をそっと撫でる。


ノエルは嬉しそうにオレの手のひらに頭を押しつけてきた。


「さ、行きましょうか。」


「こちらです。」







☆☆☆




案内されたのは店の裏方にある木造の建物だった。


見た目はシンプルだが、しっかりとした建物のようだ。


その脇には少し小さめだが牧草地のような場所もあった。


どうやらうさぎちゃんとやらは動物らしい。


そう思ってオレは脳内に猫と同サイズの真っ白く耳が長いウサギの姿を思い浮かべた。


「こちらです。お入りください。」


女性に案内されて建物の中に入る。


中の床はどうやら土を踏み固めただけのものらしい。


そこに一匹の大きな真っ白な動物がいた。


真っ白な動物は眠っているのかこちらを見ようともしない。


あれ?うさぎは?


オレは首を傾げる。


オレはうさぎに会いに来たんだよな?


建物の中を見回すがうさぎの姿なんて影も形もなかった。


もしかして、どこかに隠れているのだろうか。


「うさぎちゃん。貴方とお話ができそうな人を連れてきたの。」


女性はそう行って建物の奥の方に歩いて行く。


女性の向かう先には大きな真っ白な動物がいるだけだ。


もしかして、あの大きな真っ白の動物の影にうさぎがいるのだろうか。


そう思ってオレは女性の後を追う。



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