第16話


空は晴天。


雲ひとつない青空が広がっている。


オレはその空を見つめながらため息をひとつついた。


「カナタ、ため息つくと幸せが逃げちゃうのー。ダメダメだよ。」


ノエルがぴょんぴょん跳ねながら、オレの足を金色の長いしっぽでテシテシと叩いてくる。


「でもさ、オレ。シラネ様に騙されたのかな・・・?」


「シラネ様は騙さないのー。カナタに全部説明してないだけなの-。」


ぐふっ。


ノエルの説明にオレは飲んでいた水を吹き出しそうになった。


説明してないだけとか・・・。


そうかそうか。


まあ、聞いてないことばっかりだったけどな。


オレの種族のこととか、金色の卵のこととか。


「カナタ、これからどうするの-?」


物思いにふけっているオレに、ノエルが首を傾げながら聞いてくる。


これからどうする・・・か。


正直どうしたらいいのかもわからない。


いろんな金のたまごをもらえば、それによっていろんな能力を得ることができるのだろう。


そうすることで、オレは無職ながらもなんでもできる人間になるのかもしれない。


「あー、ひとまずは仕事を見つけつつ旅をするかなぁ。」


オレに何ができるかはわからないし。


「ふぅ~ん。ノエルも一緒だってこと忘れないでね?」


「ああ。もちろん、わかってるよ。ノエルに苦労はさせないから。」


「ならいいの。」


ノエルは何がご機嫌なのか、尻尾をゆらゆらと揺らしてオレの顔をじっと見ている。


まるで、なにかを待っているような表情だ。


なんだろうか?


ノエルはじれったくなってきたのか、オレの方に首を伸ばしてきた。


そうして、頭をオレに見せてくる。


もしかして・・・撫でて欲しいのか?


「えへへ~。えへへへへ~。」


ノエルが撫でて欲しそうにしていたので、ノエルの頭を優しく撫でてみる。


すると、ノエルは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし始めた。


どうやら、頭を撫でて欲しくてオレのことをじっと見つめていたらしい。


もっと撫でてというように、ノエルがオレの手のひらに頭を押しつけてくる。


オレは、ノエルの気が済むままノエルをなで続けていた。


しばらくして、ノエルの気が済んだのか、ノエルがオレの手のひらから離れていった。


なんだか、手のひらに感じていたぬくもりがなくなると切なくなる。


「ノエル撫でると気持ちいいでしょ?」


「あ、ああ。」


確かに、手のひらから感じるノエルの暖かい体温とふわふわの毛並みはとても気持ちいい。


「カナタだから撫でさせてあげるんだからね!」


「う、うん?」


ノエルはピョンとオレの膝から飛び降りると、とてとてと歩いて行く。


「カナタ!行くの!!ノエルはお腹が空いたの!」


「あ、そうだな。もう、お昼だな。」


確かにいつの間にかお昼の時間になっていた。


ノエルがお腹を空かせたというのも頷ける。


今日はどこでお昼を食べようか。


前回はアーモッドさんのところで食べたけど、今日は冒険はしたくないし。


アーリアさんがいるニャーニャー亭にしようか。


あそこなら、料理の味が安定しているということだし。


そう思って、オレとノエルはニャーニャー亭に向かった。



「いらっしゃいませ~。」


ニャーニャー亭はかなり繁盛をしていた。


店の前には長蛇の列ができている。


やはり味の保証があるというのは大きいのだろうか。


まあ、安定してそれなりに美味しいものを食べたいしね。


「カナタ、ここすっごく並んでるの-。」


「ああ。そうだな。」


「ノエル、お腹ペコペコなの-。あっちの空いているとこがいいのー。」


「えっ!?」


どうやらノエルのお腹は限界のようだ。


ニャーニャー亭の隣にあるお店に入ろうと提案してきた。


ニャーニャー亭の隣にあるお店は人がまばらなようで、すぐに店内に案内されているようだ。


ただ、お店から出てくる人の顔は微妙である。


顔をしかめて出てくる人はいないのだが、首を傾げて出てくる人が多いのだ。


満足した表情で出てくるお客はいない。


可も無く不可も無くといった味なのだろうか。


「にゃんか良い匂いがするのー。」


ノエルがご機嫌な様子でニャーニャー亭の隣の店に向かって歩いていく。


「あ。ノエル、待って!」


オレはノエルの後を追いかけるようにニャーニャー亭の隣のお店

に向かった。


「あ、いらっしゃいませー。」


ニャーニャー亭の隣のお店はニャー亭というらしい。


年を召したおばさんが出てきて、すぐに席へと案内してくれた。


店内は綺麗に掃除されており清潔感にあふれている。


店内を見る限り、お客の数は少ないようだけれどもそれでも店の半分ほどの席は埋まっていた。


「日替わり定食でよろしいでしょうか。」


席に座るとすぐに注文を取りに店員さんがきた。


こちらも年を召したおばさんだった。


清潔感があるので見苦しくはない。


むしろ好感がもてる。


「日替わり定食と・・・猫が食べれるようなものはありますか?」


この店にもメニューというものは存在していなかった。

なので直接ノエルが食べれるようなものがないかと確認をする。


すると女性は目を輝かせた。


「まあ!この可愛い猫ちゃんはお魚とお肉どちらが好きかしら?」


「あれ?そういえば、ノエル。好き嫌いあるのか?」


ノエルの好き嫌いなんて考えたこともなかった。


ノエルがお魚とお肉どちらが好きなのかもオレはまだ知らない。


「ノエルはねー。お魚が好きなの-。白身のお魚-。」


「そっか。ノエルはお魚が好きだったんだな。じゃあ、白身魚のご飯があればお願いします。」


「まあ!まあ!あなた猫ちゃんとお話ができるのね!すごいわ。」


「え、ええ。」


女性はオレがノエルと会話ができるということを知って目をキラキラと瞬かせた。


その勢いに思わず後ずさりそうになってしまう。


「ねえ。猫ちゃんとお話ができる貴方にお願いがあるの。聞いてもらえないかしら?」


「その前にノエルのご飯-。お腹すいたのー。」


てしてしと尻尾を椅子に打ち付けてノエルがご飯を要求した。


「あはは。すみません。ノエルがお腹が空いているのでご飯を食べた後にお伺いしてもよろしいですか?」


「まあ。そうよね。ごめんなさいね。私ったら。すぐに用意するわね。」


女性はそう言うと厨房の方に戻っていった。


それにしても、女性の言うお願いとはなんだろうか。



「おいしぃーーーのぉ!」


ノエルはそう言ってだされた料理を一口食べてご満悦の表情を浮かべている。


長い金色の尻尾が嬉しそうにゆらゆらと揺れている。


「カナタ、このご飯美味しい!美味しいのー!」


興奮しているため瞳孔が開いており、いつもより瞳が大きく見えていつもよりさらに可愛く見える。


「そんなに美味しいの?一口くれるかな?」


ノエルの食べている様子が可愛くて、またあまりにも美味しそうにパクついているものだからオレも一口食べてみたくなる。


「ふふっ。同じものを出しましょうか?新鮮な食材だけで作っているから貴方も安心して食べれますよ。でも、味付けはしてないから貴方には薄味かもしれませんが。」


ノエルのはしゃぐ姿に目元を綻ばせながら料理を運んできた店員の女性がそう言ってきた。


確かに美味しそうなのだ。


味付けをしていないというが、鼻をくすぐるような良い匂いがする。


「これ、なんの魚なんですか?」


「アーフィッシュという魚よ。このアーニャン町では流通しているお魚よ。今朝とれたばかりだから新鮮よ。」


ノエルのご飯を見ると、白身魚とパプリカだろうか、赤みのある野菜の姿が見える。それに、少しお肉も入っているのか・・・?


「猫もね、少量のお野菜はとった方がいいのよ。でも、猫の場合は食べれない食材のものもあるから注意が必要よ。」


「おいしーの。でも、カナタにはあげないのーーーっ!!」


もぐもぐもぐもぐとご飯にかぶりつきながら、ノエルは両手でご飯のお皿をオレから隠すようにする。


「はいはい。わかった。とらないから。ゆっくり食べて。」


そう言うとノエルは安心したかのように、また食べ始めた。


本当に美味しそうに食べるなぁ。ノエルは。


さて、ノエルが美味しそうに食べているから、オレの前に出された食事も期待していいのかな?


オレの前に出されたのはシチューだった。


真っ白なシチューの中にゴロゴロとした野菜とお肉が見える。


それに、少し固めのパンがついていた。


このパン。堅そうだけど、シチューにつけて食べたら美味しそうだな。


「パンはシチューに浸しながら食べると美味しいですよ。よかったら試してみてくださいね。ではごゆっくり。お食事が終わったころにまた来ますね。」


そう言って店員さんはオレたちの席から離れていった。


どうやら、パンはシチューに浸すのがお勧めの食べ方のようだ。


オレはまず最初にシチューから楽しむことにした。


スプーンでシチューを一口口に運ぶ。


「・・・ん?んん?」


そして、シチューを口にいれたところでオレは首を傾げた。


そうして確かめるようにもう一口、さらにもう一口と口に運ぶ。


「あー、パンと食べると美味しいってことなのかな?」


オレはそう思って、パンを手に取ると一口大にちぎってシチューに浸して食べてみた。


「・・・うん?」


おかしいな。


オレの口がおかしいのかな?


ノエルはあんなに美味しそうに食べているのに、なんだかオレのはあまり・・・美味しくないんだけど。


まずくはないんだけど、美味しくもない。


食べれなくはないけど、好んで食べるような味ではない。


そんな感じだ。


だから、この店は空いていたのかと妙に納得してしまった。


でも、ノエルはとっても美味しそうに食べているんだけどなぁ・・・。


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