第15話


「それで、カナタよ。妾になにか頼みがないか?」


シラネ様がオレにそう尋ねてくる。


って、言ったってシラネ様は万能ではないんだろう?


全ての願いが叶う訳ではない。


「オレ以外には職業を選べる人はいないんですか?」


「うむ。選べぬのじゃ。」


「オレ・・・鶏の獣人じゃなく別の種族がいいんですが・・・。」


なんで鶏の獣人なんだろうか。


「なんじゃ。種族を選ばなかったのはカナタじゃろ。今になって種族を変えろとは・・・。妾には無理じゃ。」


やっぱり駄目か。


なんだか鶏の獣人だなんて中途半端で嫌だ。


鶏の獣人には悪いけれども。


「と、いうかのぉ。我は別にカナタを鶏の獣人にしたわけではないのじゃ。」


「は?」


シラネ様が何を言っているのかオレにはわからない。


オレは鶏の獣人だろう?


種族を決めたのはシラネ様だろう?


なのに、なんでシラネ様がオレを鶏の獣人にしたんじゃないなんて言うんだ・・・?


「カナタ、お主金色の卵をもらわなかったかえ?」


シラネ様は一拍おいてそう尋ねてきた。


「金色の卵・・・?」


「そうじゃ。金色の卵じゃ。」


金色の卵って言えば、アーモッドさんのところの鶏小屋で見たあの卵だろうか。


でも、あれはオレがもらったわけじゃない。


オレは金色の卵を見ただけだ。


「オレは金色の卵を見たけど、もらったわけじゃ・・・。」


「ふむ。その卵はカナタの者じゃ。おおかた鶏がカナタに感謝して金色の卵を産んだのじゃろ?」


確かにアーモッドさんからそんな話を聞いたような気がする。


一生に一度だけ感謝をした相手に金色の卵を産むとかなんとか。


え?あれって本当だったの?


いやいやいや。


でもだからってなんで金色の卵とオレの種族が関係あるんだ?


「そうですね。あの鶏はカナタさんに感謝して金色の卵を産んだのでしょう。」


アーモッドさんはシラネ様の言葉に深く頷いていた。


「でも、だからその金色の卵がどう関係しているんですか?」


いまいちよくわからなくてシラネ様に確認をする。


「カナタの種族は特別仕様でのぉ。金色の卵をもらった相手の種族になれるのじゃ。」


「はあ!?」


え?よくわかんないんだけど。


種族が変わるってことか・・・?




「そんな種族初めて聞きました。」


「種族が変わるだなんて・・・。」


アーモッドさんもアネットさんも初めて聞いたことのようでとても驚いた表情をしている。


「それはそうじゃ。そんな種族カナタただ一人じゃからのぉ。」


シラネ様はさも当然のように優雅に微笑む。


って、オレ一人だけの種族っ!?なにそれ。


同族がいないだなんて・・・。


それって・・・それって・・・。


「それって!!オレは誰とも結婚できないということかっ!?」


「「「はあ???」」」


オレの心からの叫びにシラネ様たち三人は同時に声を上げた。


「いやだってさ!普通は同族同士で結婚するものでしょう?オレしかいない種族ならば結婚なんかできないでしょう!オレ、一度は彼女が欲しかったんですよ!!一度くらいは彼女が欲しかったんです!可愛い奥さんをもらって可愛い奥さんに甘えて過ごすのがオレの夢だったんです。それが・・・それが・・・。こんなのってないよっ!!」


うぅ・・・。


どうして、異世界まで来て一生独り身なんだ。


どうして、異世界まで来て彼女ができないんだよ。


そんなのって・・・そんなのってないよっ!!!


オレの目から涙がこぼれ落ちる。


夢だったのだ。


可愛い彼女と付き合って、可愛い奥さんをもらってその奥さんに甘えて過ごすのがオレの夢だったのに。


「・・・カナタさん。何を勘違いしているのか知りませんが・・・。別にこの国では異種族間の婚姻を禁止してはいませんよ。」


アーモッドさんはため息まじりにそう教えてくれた。


「えっ!?本当ですかっ!!」


「ええ。本当ですよ。」


「ええ。私も何人も異種族間で婚姻を結んだ者をしっております。だから、安心してください。」


アーモッドさんもアネットさんもそう言うのだから、異種族間の結婚は問題ないのだろう。


よかった。


本当によかった。


じゃあ、オレ今の種族のままでいいや。


でも、三歩歩いたら忘れるってのは嫌だなぁ。


「おお。そうじゃそうじゃ。何も金色の卵は一つだけではないゆえ。カナタが生きておればいくつか他の種族からももらうことがあろう。金色の卵をもらえばもらうほどその種族の特性が身につくのじゃ。是非ともたくさんの金色の卵を集めるのじゃ。」


シラネ様はそう言った。


ってか、金色の卵って珍しいんじゃないの?


ほとんど幻に近い物だとアーモッドさんから聞いたような気がするんだけど。




「金色の卵を集める・・・ですって?」


「そんなこと・・・。」


アネットさんとアーモッドさんが驚いた声を上げる。


「なにを驚いておるのじゃ?」


驚いているアネットさんとアーモッドさんを尻目にきょとんとした顔のシラネ様。


まるでアネットさんとアーモッドさんが何を聞いているのかわからないといったような顔だ。


「金色の卵は一生に一度見ることすら難しいものです。それを集めるなどとは・・・。」


アーモッドさんが眉間に皺を寄せて難しい顔で呟いた。

やっぱり。金色の卵はレアのようだ。


やすやすと手に入れることなどできないものなのだろう。


「なにを言っておるのじゃ。金色の卵を集めることなど簡単なことじゃ。」


シラネ様はこともなげにそう言った。


「「「えっ?」」」


思わずオレたちの驚いた声が重なる。


「心から感謝されればよいのじゃ。簡単なことじゃろ?」


心から感謝されることが簡単・・・?


それも動植物に・・・?


まず、動植物と意思疎通をはかることが難しいのに、それらに心から感謝されるようにするとはかなり難しいことなのではないだろうか。


鶏の場合は偶然が重なったものだ。


鶏の言うことをただ聞いていただけなのだから。


「まあ、よい。すぐにわかるじゃろう。簡単なことじゃと。」


シラネ様はそう言うとケラケラケラと笑い声をあげ、そのまま姿を消した。




★★★




「なんだったんだ・・・。いったい。」


「あり得ないわ。金色の卵がそう簡単に集まるはずが・・・。」


「そうですよ。一生に一度でも見れたらかなり運がいいというのに・・・。」


アネットさんもアーモッドさんもシラネ様がおっしゃったことが信じられないようだ。


オレは元々この世界の人間でもないし、金色の卵がどれほど珍しいものなのか実はよくわかっていない。


だから、シラネ様が簡単だというのならば簡単なのかと思ってしまった。


「でも・・・女神様とお知り合いとは、あなたはいったい何者ですか?」


「そうです。名前を呼ぶことも許されているだなんて・・・。」


「えっ。あ、まあ。えっと・・・。」


オレってそう言えばシラネ様のなんなんだろうか。


ただこの世界にオレを送り込んだのがシラネ様ってだけで、オレは特にシラネ様から世界を救えだのなんだのと言われているわけでもない。


それならば、オレってシラネ様にとってどんな存在なのだろうか。


ついっとノエルを見やる。


ノエルはふさふさの耳をピンッと立てて嬉しそうに一声鳴いた。


「カナタはノエルの下僕なのー。」







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