第13話


「そうですか。ギルドというのは全ての職業に対して就職先を斡旋してくれる場となります。また職業が冒険者の人には討伐依頼や採取依頼、捕獲依頼などが用意されています。」


「へぇ~。」


アーモッドさんはギルドについて詳しく教えてくれた。

討伐依頼や採取依頼か・・・。まあ、オレには関係ないけどね。


「また、ギルドでは無償で職業を調べてくれたりもします。カナタさんが無職ってことはないです。絶対に。テイマーです。だから、見てもらいましょう。」


アーモッドさん・・・。オレが無職じゃないってことを証明するために、ギルドまで連れてきたのか・・・?


「それに、職業が無職だったらこの町で就職することなんてできませんよ?あったとしても雑用仕事ばかりです。子供のお駄賃程度なので雑用仕事で生計を立てるのはかなり難しいでしょう。」


「え?そうなの?無職だとこの町で雑用仕事くらいしかないの?」


「・・・はい。まあ、職業が無職というのも初めて聞きましたが、多分、雑用くらいしか任せてはもらえないでしょう。他の町でも同じだと思います。」


「へ・・・?」


アーモッドさんが神妙な顔をして教えてくれた。無職だと生活するために十分な金額を稼ぐことはできないと。


あれかな?


日本でいうアルバイト的な感じなのかな?


っていうかさ、シラネ様。無職ってやっぱハードモードだよね?


職についている人に師事すれば、その職業の適性が付与されるって言っていたけど、まず適性が付与されるまでの生活が成り立たなそうだ。


・・・どうして、どうしてオレは無職でいいなんて頷いてしまったのだろうか。


アーモッドさんの職についての説明を受けていると、涙が出そうになった。


「な、泣かないでくださいっ!だから、カナタさんが無職だってあり得ないんですっ!きっと、間違いです。だって、動物と会話することができるのでしょう?カナタさんの職業はテイマーですよ。きっと。だから、見てもらいましょう。」


「は、はいっ・・・。」


ぐすんっ。


アーモッドさんはオレが泣きそうになったのを見て、必死に慰めてくれようとしているようだ。


ってか、オレ。なんでこんなことで泣きそうになっているのだろうか。


「ほら、カナタさん。次ですよ。」


アーモッドさんにそう言われて、視線をあげると、一人の女性と目があった。


ギルドの職員だろうか。


目が合った時ににっこりと微笑まれた。


うっ・・・。可愛いかも・・・。


「カナタさんですね!では、カナタさんの職業を拝見させていただきますね!こちらの水晶に手をかざしてください。」


女性はにっこりと笑いながら、オレに水晶の上に手をかざすように言ってきた。


オレは言われた通りに水晶の上に手をかざす。


すると、水晶が淡い光を放ち始めた。


「・・・無職、ですね。おかしいですね。この装置故障しているのかしら?」


ギルドの職員である女性はそう言って別の水晶を取り出した。


「こちらの水晶に手をかざしてくれますか?」


「は、はい。」


オレは新しく出された水晶に手をかざした。



新しく出された水晶に手を乗せると、先ほどと同じように水晶が淡い光を放ち始める。


そうして、ギルドの職員の女性が顔をしかめた。


「・・・やっぱり、無職ですね。それに、ちょっとカナタさんの種族の説明がおかしなことになってます。これは、水晶の不具合でしょうか??」


ギルド職員の女性は不思議そうに首を傾げた。


っていうか、種族の説明がおかしい?


どういうことだろうか。


そういえば、オレ自分の種族を知らなかったんだよなぁ。


女神様はオレの種族を勝手に決めてしまって、オレには教えてくれなかったんだよなぁ。


「あの・・・オレの種族がなにか?」


「種族自体は問題ないんですよねぇ。でも、なんでカナタさんだけこんな説明なんでしょうか?」


「えっと・・・どんな説明なんでしょうか?」


そんなに不思議そうな顔をして言われると、オレもどうしていいかわからない。


「鶏の獣人なんですが・・・。説明が、その・・・。」


そこまで言ってギルド職員の女性は視線をついーっと逸らした。


えっ?なに?そこまでひどいの?


って、オレって鶏の獣人だったの!?


いや、でもオレ顔は普通だよな・・・?


顔は人間の顔だし、鶏冠もない。


手や足だって人間の手足だ。


「『どんな嫌なことだって三歩歩けばすぐに忘れます。1、2、3、ポカン・・・。』って書いてあります。」


「へ?」


「なんですか、それは・・・。」


ギルド職員の女性の口から発せられた言葉に、オレもアーモッドさんもポカンと口を開けてしまった。


あの女神様、なんて説明を追加してくれたんだ。


三歩歩けば忘れるって、まるで鶏じゃないか。


って、オレ鶏の獣人だった。


「私にもよくわかりません。長年、ギルドに勤めていますが、こんなのは初めてです。」


「私も初めて聞きました。」


どうやらギルド職員の女性もアーモッドさんもこんな変な説明は初めて聞いたようだ。


まったく。あの女神様は変なことをしてくれる。


「あ、あともう一つ説明がありました。『鶏じゃからのぉ、空も飛べるかもしれぬぞ。』と書いてあります。」


「鶏は空を飛べませんが・・・。」


ギルド職員の女性が続けた言葉にアーモッドさんが即座にツッコむ。


あの女神様。ほんとなんてことしてくれているんだろうか。


「女神様なんてもう・・・しらねぇーーーーー!!!」


「呼んだかえ?」


オレが今の気持ちを叫ぶと、すぐに女神様の返答があった。


呼んでない。


オレ、女神様のこと呼んでないから。


「えっ!?女神様っ!!」


「め、女神様っ!!」


女神様が現れたことにギルド職員の女性もアーモッドさんも驚きに慌て出す。


ってか、皆女神様の顔を知ってたのか。


「カナタよ。妾を呼んで何があったのじゃ?不都合でもあったかの?」


慌てるオレ達に構うことなく、女神様はひょうひょうとそう尋ねてきた。


「し、シラネ様・・・。オレは別にシラネ様を呼んだ訳では・・・。」


「大声で妾の名前を呼んだではないか。呼んだからにはお主の願いを叶えねばならぬのじゃ。さあ、カナタよ。何が望みじゃ。」


シラネ様はゆったりとした笑みを見せた。


どうやらシラネ様に何かお願いするまで、シラネ様は帰ってくれないようだ。


っていうかさ、アーモッドさんもギルド職員の女性もシラネ様の顔知ってたんだよね?


もしかして、シラネ様って時々顕現してたりするのだろうか。


ってか、この世界の人たちは幼女が女神様でいいのだろうか。


「あ、あの女神様。」


「・・・なんじゃ。」


ギルド職員の女性がシラネ様に恐る恐る声をかけた。


シラネ様はオレに向けていた視線をギルド職員の女性に向ける。


その視線はオレに対しての視線とは違い、冷たい視線だった。


冷たい視線を向けられたギルド職員の女性はビクッと身体を一瞬震わせた。


「わ、私、アネットと言います。あの・・・カナタさんが無職だというのは本当なんでしょうか。この水晶の故障ではないのでしょうか。」


どうやらギルド職員の女性の名前はアネットというらしい。


アネットさんは意を決して、シラネ様に問いかけている。


その問いかけを受けたシラネ様は表情を少しだけ柔らかくした。


「うむ。妾がカナタを無職とした。」


「む、無職なんて聞いたことがありません!ここでは生きづらいのではありませんかっ!」


「ほぉ・・・。」


シラネ様がオレの職業を無職だと断定すると、アネットさんが声を荒げてシラネ様に抗議をした。


その抗議を受けてシラネ様はゆったりと目を細めた。


「女神様。私はアーモッドと言います。カナタさんは無職のようですが、猫や鶏と会話ができておりました。本当に彼は無職なのでしょうか。」


今度はアーモッドさんがシラネ様とアネットさんの会話に割り込んできた。


その内容もオレに関するものだ。


「カナタは無職じゃ。じゃが、職を持っているものに師事すればその職の適性を身につけることができる。ゆえに、どんな職にでもカナタは就くことができるのじゃ。まあ、職に就かずにいることもできるがのぉ。」


「そ、それは・・・。」


「私たちが転職できるということですか?」


「お主らは無理じゃ。じゃが、カナタの血を引くものであれば、職を選べるようになるかもしれぬの。」


シラネ様はそう言って怪しげに微笑んだ。


そのシラネ様の言葉を聞いて、アーモッドさんとアネットさんの喉がゴクリと動く。


もしかして、この世界の人たちは実は自分で職業を選んでみたかったのだろうか。




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