第12話


「あの・・・テイマーでないと動植物と会話をすることはできないんですか?」


「ええ・・・。できないと聞いています。」


アーモッドさんは、ゆっくりと頷いた。


そっか。


そうなんだ。


テイマーじゃないと動植物と会話ができないのか。


でも、オレはこの鶏と会話ができたんだ。


もしかして、ノエルみたいにこの鶏も特別なのかな?


「でも、アーモッドさんはノエルとは会話ができていますよね?」


「いいえ。でも、私、猫が大好きなんです。家にも数匹飼っておりまして。その子たちの面倒を見ているからか、猫だったら何を言いたいのか催促しているのか大体わかるようになったんです。」


「そ、そうなんですね。」


なんだ。


アーモッドさんはノエルと会話ができていたわけじゃないのか。


まあ、猫って結構表情が豊かだしな。


何をしたいのか、何をして欲しいのか態度で示してくるし。


長時間猫と接していればだいたい何を言いたいのかはわかってくるだろう。


でも、アーモッドさんはノエルと会話ができていたわけではないのか。


確かに今思うと、アーモッドさんはノエルと直接の会話をしていなかったように思える。


「じゃあ、この金の卵を産んだと思われる鶏とも会話をしたことがないと・・・?」


「ええ。ありません。そんなことはできませんよ。」


「そ、そうでしたか。」


オレの質問にアーモッドさんは鶏とは会話ができないと即答した。


アーモッドさんの表情を見る限り嘘をついているようには見えない。


って、ことはオレってば知らない間にテイマーの適性を取得してたのか?


「カナターー!何してるのー?」


オレが適性のことに思いを馳せていると、飛び跳ねるようにノエルが鶏小屋にやってきた。


「あっ!ノエル!!」


オレの適性について、もしかしてノエルだったらもうちょっと詳しく知っているのだろうか。


なんたってシラネ様からオレのサポートをするように言われているのだから、なにかしら知っていてもおかしくない。


「なあ。ノエル、知っていたら教えてくれ。オレって、テイマーの適性があるのか?」


「あるよー。だって、ノエルのお世話をしてくれるんでしょ?だから、シラネ様が特別にカナタに適性を授けたでしょ-?覚えてないの-?」


無邪気に笑いながらノエルが教えてくれた。


まさか、ノエルの下僕になりますと言ったオレの発言でテイマーの適性を付与してくれていたとは・・・。


まあ、何らかの適性を授けたとは言っていたが何の適性だか確認していなかったオレが悪いんだけどさ。


「そ、そうか。あの時か・・・。」


「か、カナタさん??もしかして、ノエルちゃんと会話ができるんですか?」


アーモッドさんは恐る恐るオレに問いかけてきた。


「え・・・あ、はい。」


嘘をついても仕方が無いので、オレはアーモッドさんの問いかけに素直に頷いた。


「じゃあ、もしかしてこの鶏とも会話が・・・。」


「はい。先ほどお腹が苦しいとうったえてきました。そして、お腹が苦しいからさすって欲しいと・・・。」


「な、なんとっ!!」


オレが先ほどまでのことを告げると、アーモッドさんは顔に手を当てて空を仰いでしまった。


な、なにがいけなかったんだろうか。


「ああ。大変だ・・・。大変だ・・・。」


アーモッドさんは急に慌てだした。


一体なにが大変だというのだろうか。


もしかして、この金色の卵の処遇に困っている、とか?


「あの・・・。オレは鶏小屋の掃除を続けさせていただきますね。」


なんだか、あまり関わらない方がよさそうだ。


そう思ったオレは、まだ手をつけていない鶏小屋の掃除に戻ろうとした。


だが、その前にガシッとアーモッドさんに手を掴まれてしまった。


「か、カナタ様にそのようなことはさせられませんっ!うちの従業員を呼んで参りますので、その者に任せます。」


「えっ!?いや、でもオレ無一文だからお代・・・。」


な、なんでっ!?


なんでいきなりアーモッドさんはオレのことを「様」づけし始めたのだろうか。


理解が追いつかない。


「金色の獣は神獣とも言われております。その神獣と会話ができるのは数少ないテイマーの中でも、更に一握りしかいないと言われております。」


「は、はあ。」


神の御使いと言われても・・・。


確かに女神様と話したことはあるけれども・・・。


っていうか金色の獣が神獣だって言われているんだったら、ノエルを見たときに驚いてほしかったよね。


なんで今更・・・。


「それゆえ、神獣と会話ができるテイマーは神の啓示を伝える者とすら言われております。」


「はあ。」


なんだか、頭が混乱してきたぞ。


アーモッドさんの言っていることがよくわからないし、なんか怪しい宗教に誘われているような気分になってきた。


「どうか、どうかカナタ様。ここにずっといらしてください。仕事なんかせずともずっとここで暮らしてください。何不自由はさせませんからっ!!お願いいたしますっ!!」


そう言ってアーモッドさんは急にオレに跪きはじめた。


オレ・・・こういう展開苦手なんだけど・・・。


「あの・・・勘違いしているようですけど、オレの職業はテイマーなんかじゃありません。オレの職業は無職なんです。」



「・・・無職?」


アーモッドさんの不審気な声が聞こえてきた。


眉間に皺もよせている。


「はい。」


「・・・そんなことはあり得ません。この世界にいきる者は必ず職業についています。それこそ、赤ん坊からお年寄りまで。」


「ええ。でも、オレは無職なんです。」


「そんなことが・・・。」


オレの言葉だけではアーモッドさんは納得してくれないようだ。


まあ、オレだって同じかもしれない。


もし誰かが「オレは無職だ。」って言ったら信じられないだろうな。


だって、この世界は女神様が産まれたときから職業を与えているのだから。


「ちょっとこちらに来てください。」


「えっ・・・。でも、鶏小屋の掃除が・・・。それに金色の卵を産んだ鶏がぐったりしているのが気になって・・・。」


「掃除はこちらで別の者を手配いたします。・・・鶏は、気になるようでしたら連れて行きますか?」


「え?」


アーモッドさんの言葉にオレはドキッと驚いた。


鶏を連れて行くってどこへ?


鶏小屋から出してしまっても問題ないのだろうか。


ってか、オレ、どこに連れて行かれるのだろうか。


「差し上げますよ。」


「えっ!!?」


どうやら鶏をオレにくれるらしい。


でも、オレ鶏の飼育方法なんて知らないし。


それに住んでいるところすらない状態なのだ。


それで鶏をもらっても嬉しくはない。


「心配せずとも大丈夫です。基本的にご飯をあげて自由にしていてあげれば問題ありません。あ、日光にはできるだけ当たるようにしてくださいね。」


「は、はあ。でも、オレ家がないんで・・・。」


「気にすることはありません。ニャーニャーニャー亭の寮の一室を提供いたします。」


そういうことになった。


「さあ、そうと決まればこちらに来てください。」


オレはそう言われてアーモッドさんに手をひかれながら鶏小屋を後にしたのだった。





☆☆☆




「うわぁ・・・。すごく大きな建物。」


アーモッドさんに連れてこられたのは、アーニャ町の中心部に位置するでっかい建物の前だった。


この建物はなんだろうか。


華美ではないのだが、シンプルな装飾がいたるところにある。


それに、人が出たり入ったりしている。


「ここに来るのは初めてですか?」


「はい。ここは何のお店ですか?」


「ギルドです。」


「え?ギルド・・・?」


ギルドってなんだろうか。


お店の一種なんだろうけど、ギルドというお店がよくわからない。


もしかして、ギルドっていう名前のお店なのだろうか・・・?


「カナタさん・・・。もしかして、ギルドを知らないんですか?」


「・・・はい。」


知らないものは隠してもすぐにバレてしまうし、オレは素直に頷いた。










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