第11話
「どうしたんだ・・・。おまえ?」
オレは苦しんでいる鶏のそばにしゃがみ込み尋ねた。
まあ、鶏が返事をしてくれるわけがないんだけどね。それに、オレの仕事は鶏小屋の掃除で、この鶏が具合が悪かろうが気にすることではないのだ。
だが、苦しんでいる鶏を放っておくこともできずに様子を伺う。
『お腹・・・苦しい・・・。』
「えっ?」
すると、目の前にいる鶏の声が聞こえてきた。
この世界の動物はノエルのように、みんなしゃべれるのだろうか。
『お腹・・・苦しい・・・。』
「だ、大丈夫か・・・?ちょっとお腹触ってもいいか?」
オレは鶏に許可を得てお腹を触る。
ふわふわの羽毛が心地よい。
「・・・ん?あれ・・・?」
鶏のお腹を優しく触ってみれば、ふわふわのお腹に似つかわしくない堅い感触があった。
なんだろう、コレは・・・。
『卵・・・でない・・・。』
「ええっ!?もしかして、卵が詰まっちゃってるのっ!?」
鶏は不定期に卵を産む生き物だ。
その卵が産まれてこないということは、どうやら卵がお腹の中で詰まってしまっているらしい。
これは苦しいはずだ。
もしかしたら、この鶏の命に関わるかもしれない。
アーモッドさん・・・。
アーモッドさんを呼んでこないと・・・。
「今、アーモッドさん呼んでくるからっ!!」
『いい・・・。お腹さすって・・・。』
しかし、鶏はアーモッドさんを呼んでこなくていいという。その代わりにお腹をさすって欲しいと。
お腹をさするだけでいいのだろうか。
手術とかしなくていいのだろうか。
このままこの鶏が死んでしまったどうしよう。
そんな思いが頭の中をぐるぐるとかけめぐる。
鶏のお腹をさすりながらアーモッドさんに連絡を取るすべはないだろうか。
ノエルがいれば、ノエルにアーモッドさんを呼んでくるように言えたのに、頼みの綱のノエルは外に出た鶏を追いかけていってしまっていない。
シラネ様を呼ぶ案件でもないだろう。
でも、目の前の鶏は苦しんでいる。
どうしようか。
そう、悩んでいた時だった。
「コココココココココココッ!!コッコッコッ!!」
目の前の鶏がけたたましく鳴き始めたのは。
「だ、大丈夫かっ!?や、やっぱりアーモッドさんを呼んでくるから!」
鶏が苦しむのを見ていられなくなって、オレは慌てて鶏小屋から飛び出し、急いでアーモッドさんを呼びに行ったのだった。
「おや。もう鶏小屋の掃除が終わったんですか?」
アーモッドさんの元に駆け寄ると、アーモッドさんはにこやかにそう尋ねてきた。
「ちがっ・・・。ぜぇ・・・はぁ・・・。鶏が卵がお腹につまって死にそうなんだ・・・。」
久しぶりに全力で走ったからか息が切れて声を出すのが辛い。
でも、なんとか声をだしてアーモッドさんに告げる。
すると、アーモッドさんは辛そうな表情を浮かべた。
「そうですか・・・。数日前から元気がなかった子がいたので心配していたのですが・・・。」
「鶏を見れるお医者様はいないんですかっ!動物病院はっ!?」
問いかけるオレにアーモッドさんは力なく首を横に振った。
「動物を見れる人は多くないのです。猫や犬など人間のそばに存在する動物を見れる人は一定以上いるのですが、鶏となると・・・。」
「そ、そんなぁ・・・。」
もしかして、あの鶏も自分を見れる医者がいないと知っていてオレにアーモッドさんを呼んでこなくていいと言っていたのか?
それでオレにお腹をさすってほしいと言っていたのか・・・?
それをオレは・・・。
鶏がそばにいてお腹をさすっていて欲しいと訴えていたのに、それを放り出してしまったことを後悔する。
そうして、すぐに足を前にだし、鶏小屋に向かってかけだした。
「あっ!カナタさんっ!!」
後ろからアーモッドさんが追ってくる気配がするが、構ってはいられない。
オレは全速力で走った。
もっと早く。
もっともっと早く走れるようにと願いながら。
「鶏っ!大丈夫かっ!!」
そうしてたどり着いた鶏小屋の中に入り先ほどまで苦しんでいた鶏を探す。
鶏は先ほどまでいた場所にぐってりと横たわっていた。
もう、鳴く元気もないのだろうか。
そう思って鶏のそばに近づいて、そのお腹を撫でてやる。
この鶏が最後に願ったのがお腹をさすることだったのだから。
せめて、最後までお腹をさすってやっていようと。
「あ、あれ・・・?」
そうしてお腹をさすってやっていると先ほどまであった堅い感触が消えていることに気づいた。
オレは鶏がいるそばを手探りでまさぐりだす。
すると、指先に堅い感触が当たった。
「はあ・・・はあ・・・。カ、カナタさん・・・。あなたはスポーツ選手かなにかですか・・・?ずいぶん足が速く・・・私が追いつけないだなんて・・・。」
しばらくして息を切らせたアーモッドさんがやってきたのだった。
「卵・・・産まれました・・・。」
指先に当たった感触。
それは紛れもない産みたての鶏の卵だった。
「産まれたって・・・それ・・・金色・・・。」
アーモッドさんは呆然とオレの手にある鶏の卵を見つめている。
あれ?
違うのかな?
オレ、こっちの世界の鶏の卵だからたとえ金色の卵であってもおかしくないと思ったんだけど。
まあ、他の卵は白かったけどさ。
時折金色の卵が産まれるのかと思ったけど違うのかな・・・?
「・・・カナタさん。卵は普通は白なんです。まあ時折少し茶色がかった卵を産む鶏もいますが。うちで飼育しているのは白い卵を産む鶏だけなんです。」
「は、はあ。」
白い卵しか産まないのであれば、この金色の卵はどういうことなんだろうか。
でも、どうにもこの卵がお腹に詰まってしまっていた鶏が産んだ卵だと思うんだよなぁ。
状況から考えると。
「・・・でも、極まれに金色の卵を産むことがあると聞いたことがあります。」
アーモッドさんはしばらく考えてから慎重に言った。
「鶏が感謝をした相手に一生に一回だけ金色の卵を産むと聞いたことがあります。」
なるほど。
そうなるとこの鶏は・・・。
「ここで快適に飼われていたから、感謝して金色の卵を産んだってことですね。」
オレは、そうにこやかに言った。
さすがは異世界。
感謝の気持ちで卵の色が金色になるだなんてオレの住んでいた日本では考えられないことだ。
やっぱりここは異世界なんだなぁ。
不思議なことが起きる。
オレはそう納得したのだが、アーモッドさんは納得していないように見える。
「・・・カナタさん。貴方の職業は何なんですか?もしかして、貴方は・・・。」
今になってアーモッドさんがオレの職業を尋ねてくる。
ここでオレが無職だって言ったらアーモッドさんはどんな顔をするのだろうか。
「・・・テイマーですか?」
「へ?テイマー?」
アーモッドさんの口からでたテイマーという職業にオレは驚いた。
テイマーなんて仕事、日本にはなかった。
だが、異世界にはテイマーという職業があるのか。
それって、あれだよな。
動物とか魔物とかを使役する職業だよな?
オレが、テイマーだと?
あり得ない。無職なのに。
それに、無職は誰かに師事すれば他の職業の適性を得ることができるとシラネ様に言われているが、まだ誰にも師事したことがない。
それにテイマーというのは動物や魔物を使役するが、それを感謝されるものなのだろうか・・・?
「テイマーを知りませんか?そうですよね。珍しい職業ですから。テイマーというのは動植物と心を通わせ言葉を交わすことができる希有な職業です。テイマーは動植物を愛し、これらに尽くします。そんために動植物たちから感謝されることが多いのです。」
「へーそうなんですか。」
なるほどな。
動植物と心を通わせ言葉を交わすことができる・・・か。
ん?あれ?
そう言えばこの世界でも普通は鶏とは言葉を交わすことができなかったりするのか?
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