第7話
「これですっ!!これなんですっ!!僕が求めていた味は!!この味が忘れられなくて毎日このニャーニャーニャー亭に通っていたんですっ!!」
「そ、そうですか。よかったですね、もう一度食べられて。」
アルフレッドさんは好みの味に当たって興奮冷めやらぬ様子だ。
「この舌がしびれるような辛さ!それに、ただ辛いだけではなくこの深いコクと旨み!まさにこれが僕が求めていた味です!辛いのに、食べるのを止められない。これぞ、僕の求める至高の味ですっ!!」
「あ、ははっ。わかった。わかりましたから。味わって食べてください。オレのことは心配しなくていいですから。」
「ええ。ええ。カナタさん本当にありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか・・・。」
「あはは。気にしないでください。」
オレはそう言ってアルフレッドさんに交換してもらった料理を一口口に運ぶ。
「・・・あまい。」
アルフレッドさんは言った。甘めの味付けだと。
だけど、これは・・・。
甘すぎる。
アルフレッドさんと交換してしまった辛い味付けの方がマシなんじゃないかってくらい甘すぎる。まるで砂糖にはちみつをかけて食べているようだ。
料理というよりもうお菓子と言ってもいいんじゃないかと思うほど甘い。
でも、口の中でいつまでも甘ったるさを感じているわけでもない。後味はとてもスッキリとしている。
これは、甘い物が好きな人は好物になるかもしれない。
しかし、こんなに複雑な味をどうやって出しているのだろうか。ちょっと気になってしまう。
「む、胸焼けが・・・。」
決してまずい料理ではなかった。
甘い物が好きな人には癖になると思われる料理だ。だけれども、オレはあまり甘い物が得意ではない。
いくら後味がすっきりしていたとしても一食分完食すれば胸焼けもおきるわけで。
絶賛悶絶中であります。
「大丈夫ですか?」
椅子にひっくり返っているオレを、アルフレッドさんが心配そうに覗き込んでくる。
「あ、あはっ。大丈夫です。胸焼けなのでしばらくしたら治ります。」
「そうですか。では、まずはここのお店を出ましょうか。」
「へ?」
絶賛胸焼け中で苦しいのだけど、なぜ店からでようなんて言うのだろうか。
もうちょっと・・・もうちょっとだけ休ませて欲しいんだけど・・・。
「今日は大繁盛しているみたいですから。ほら、まだ順番を待っている方々がいらっしゃいますから、食べ終わったらすぐに出た方がよいでしょう。」
アルフレッドさんに言われて窓越しに外を見ると確かにお店の前に列ができていた。確かにオレ達が入る時も並んでたしな。
「教えてくれてありがとうございます。あの・・・しばらくどこかで休憩していきたいんですが、どこか休憩所を知りませんか?」
オレは椅子から立ち上がりながら、アルフレッドさんに尋ねる。まだこの町に来たばかりでどこにどんな施設やお店があるかわからないのだ。
こういう時は現地の人に聞くに限る。
「えっ・・・。」
アルフレッドさんだったらにこやかに教えてくれるだろうと思っていたのだが、先ほどまでにこやかだったアルフレッドさんは笑顔が消え、呆然とした表情をしている。
なにか、とてつもないショックを受けたような表情だ。
オレ、なんかまずいこと言ったか・・・?
思わず不安になってしまう。
オレはただ休憩所を教えて欲しいと言っただけなんだけど。
もしかして、この町には休憩できるような場所がないのだろうか。
「あの・・・アルフレッドさん?」
不思議に思って固まってしまったアルフレッドさんの目の前で手をひらひらと振ってみる。
しかし、アルフレッドさんは固まったままだ。
「お客様・・・お会計をお願いいたします。当店はテーブル会計となっております。」
アルフレッドさんが固まってしまってどうしようと思っていたところに天の助けと思われる給仕の男性の声が割り込んできた。
助かった。
アルフレッドさんが固まってしまってどうしようかと思っていたんだ。
「それと、お連れの方は嫌がっておられるみたいなので休憩所に連れて行ってはなりません。騎士様を呼びますよ。」
「え?」
だけど、次の瞬間、給仕の男性は険しい顔でオレを睨んできた。
なんでオレ睨まれてるの?オレ、なんか悪いことしたか?
ただ、アルフレッドさんに休憩所があるかどうか聞いただけだよね?
どういうこと?
給仕の男性も休憩所には連れて行くなと言ってくるし。この世界の休憩所はなんかわけありなのだろうか。
「お会計はお二人で2000ニャールドになります。」
給仕の男性はニコリとも笑わずにそう告げた。
うぅ・・・オレの何がいけなかったのか聞きたいけど聞けない雰囲気だ。
それにしても、ニャールドってのはこの世界での通貨だろうか・・・?
・・・ん?
ニャールド・・・?
お金の単位が日本と・・・違う?ちょ、ちょっとまって。
もしかして、もしかしなくても・・・オレって一文無しだったりするのかっ!?
ど、どうしよ。
日本円が使えなければオレ、ここの食事の代金どうしたらいいんだろうか。
「あ、あの・・・オレ、お金・・・。」
「はい?」
ど、どどどどどうしよう。給仕の人の表情がとても怖いんだけど・・・。
ち、違うんだよ。無銭飲食をしようと思ったわけじゃないんだ。
そう、違うんだよ。オレお金を持ってるつもりだったんだよ。
「え、えっと・・・このお金はこの国でも使えますか?」
オレは一か八かお財布の中から1000円札を取り出して給仕の人に見せた。
「なんですか、それは?それがお金のつもりでしょうか?」
すごい視線で睨まれてしまった。
声も低いし、怒っているのがひしひしと伝わってくる。
オレの額をツーッと冷や汗が伝い落ちる。
っていうか、視線だけで人が殺せるってこのことだよな。すっごく視線が痛いんだけど。
「あ、あの。オレのいた国でのお金なんですが・・・。この国のお金持って無くて・・・。」
「そうですか。・・・よくできている紙ですね。我が国の製法では作ることができないような紙ですね。ですが、どんなに優れた技術で作られている紙でも所詮は紙です。お金ではありません。」
「そ、そうですよねー。」
やっぱり1000円札は使えないようだ。
こっちの世界のお金なんて持ってないしなぁ。
女神様に会ったときに日本円をこの国のお金と交換してもらうんだった。
今からでも女神様に日本円とこの国のお金とを交換してもらえないかなぁ。
あっ!そうだ。
そう言えば困った時はいつでも女神様の名前を呼べば助けてくれるって言っていたような気がする。
「女神様っ!!」
困った時の神頼み。もとい困ったときの女神様頼みだ。
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