第4話
「ではな。お主を転移させるのじゃ。最後に名前を教えてもらってもよいかの?」
そう言えばオレはまだ女神様に名乗っていなかったような気がする。
でも、女神様だったらオレの名前くらい知っていそうだが・・・。
実際オレの今までの暮らしぶりは知っていたのだから。
まあ、でも名前を教えることくらい別にいいか。
減るもんじゃないしな。
「オレの名は五十嵐奏といいます。」
「うむ。お主は今日からカナタと名乗るのじゃ。この世界には漢字が存在しないからの。ああ、そうじゃそうじゃ。イガラシと名乗るのも今はまだやめておいた方がいいのじゃ。この世界では名字を持っているものは貴族階級くらいじゃからの。平民のお主が名字を名乗ったらトラブルに巻き込まれる可能性があるゆえに気をつけるのじゃぞ。」
「え、あ、はい。」
別に名字を名乗るなというのであればそれに素直に応じよう。
特に、こだわりがあるわけでもないし。
「よし。ではな。妾に用事があればいつでも妾の名前を呼ぶがよい。すぐにかけつけてやるのじゃ。」
「あ、ありがとうございます。」
オレが女神様にお礼を言うか言うまいかのところでオレの身体を黄金色の光が包み込んだ。
そうして、意識が途切れるのがわかった。
☆☆☆
「もし・・・。大丈夫ですか?」
誰かに身体を揺すられると同時に心配そうな女性の声が聞こえてきた。
ゆらゆらと身体を揺すられて、オレはゆっくりと目を開けた。
「あ・・・よかった。気がついたんですね。」
目の前に飛び込んできたのはまばゆいばかりの黄金だった。
もとい少女の輝くような黄金の髪だった。
「・・・オレは?」
ここは・・・どこだろう。
さっきまで誰かと話していた気がしたのに。
さっきまでいた場所とは全く違う風景だ。
舗装されていない道と、木造の家々。
時々馬車が舗装されていない道を走っていく。
「私が気づいた時には貴方はここに倒れていたのです。産まれた時から私はこの町で暮らしていますが貴方を見たのは初めて。貴方は旅の人でしょうか?でも・・・それにしては軽装ですね。」
黄金色の髪を持つ少女は、心配そうにオレを見つめながらそう確認してきた。
ああ。そうか女神様によってこの町に転移させられたのか。
でも、オレは旅人なのだろうか・・・?
いや、違う。
オレの職業は旅人ではない。
オレは無職なのだから。
でも、この世界で職業が無職なのはオレだけなのだから迂闊に言わない方がいいのだろうか。
それに、女神様によって転移させられる者がどれくらいいるのかわからない。
まだ状況を把握しきれていないので、女神様の手によって異世界から転移してきたとは伝えない方がいいだろう。
「オレは・・・カナタと言います。なぜ、ここに倒れていたのかはわかりません。」
「まあ!人さらいにでも会ったのですか?」
「え、ええ。多分。歩いていたら急に意識がなくなって、気づいたらここにいたのです。」
人さらい・・・か。
この世界にも人さらいがいるのか。
でも目の前の少女が勘違いしてくれているのならちょうど良い。
その話に乗るとしよう。
それに、あながち人さらいにあったというのも間違いはないし。
まあ、相手は女神様だけど・・・。
「そうでしたか。それは大変な思いをされましたね。貴方が住んでいた町の名は覚えていますか?ここはアーニャンという町になります。聞いたことはありますか?」
アーニャン町・・・?
うん。もちろんこの世界に来たばかりだから聞いたこともないな。
っていうか、オレのいた町か・・・。
「オレはトーキョと言う場所にいました。聞いたことはありますか?」
この世界は車ではなく馬車が走っている。
もしかするとあまり文明は発達していないのかもしれない。
そうであるならば、適当な町の名を言っても問題ないだろう。
「トーキョ・・・?」
目の前の少女はキョトンとした表情を浮かべた。
「はい。トーキョです。」
「不思議な響きの町の名ですね。でも、最近、その名前の町をよく聞きます。先日もトーキョから来たという人がいらっしゃいました。ここ数ヶ月でトーキョから来たという方がこのニャーランド王国には多く来ているようです。」
「えっ!?で、ではここからトーキョまで行くにはどうしたらいいかわかりますか?」
自分の元いた世界の東京をもじってトーキョから来たと言ってみたが、どうやら他にもトーキョから来たという人がいるらしい。
それも一人や二人ではなさそうだ。
もしかして、こちらの世界にもトーキョという地名の場所があるのだろうか。
そう思って目の前の少女に聞いてみた。
「ごめんなさい。トーキョがどこにあるか、私にはわからないわ。でも、最近よく聞くからこの町でも誰か知っているのではないかしら。」
少女は申し訳なさそうにそう告げた。
「謝らないでください。オレもこのアーニャンという町のことを知らなかったのでおあいこです。」
「トーキョというところは大きな町なんですか?」
オレが笑顔でそう告げると、少女から質問された。
それもそうだろう。
少女が知らないトーキョという町から来たという人が何人もいるというのだ。
少女はトーキョという町を知らない。
ということは、トーキョ町とアーニャン町は距離が離れているということになる。
それなのにも関わらずこのアーニャ町にトーキョから来た人が複数いる。
それはトーキョという町が発展していて人が多いからこのアーニャン町にもトーキョから来たという人が多くいるということが考えられるだろう。
まあ、それはトーキョという町がこの世界に存在すれば、だが。
もしかすると、オレみたいに日本から異世界転移させられた奴かもしれない可能性もあるが。
「ここと同じくらいの町だよ。」
この世界にあるトーキョという町は知らない。
だから、オレはそう嘘をつく。
「そうでしたか。これから、どうするんですか?」
「そうだね。帰り道もわからないし、しばらくはアーニャン町で情報収集でもしようかと思う。」
異世界に転移して、これから何をして過ごせばいいのだろうか。
女神様は特になにも言っていなかったから自由に過ごしていいんだよな?
よく、「○○を救ってくれ」とか「○○を倒してくれ」とか異世界転移すると神様に言われる展開が多いが、そんなことまるっきり言われなかったし。
だから、自由に過ごしていいんだろうと捉えている。
しかし、このアーニャンでずっと暮らしていくかと聞かれたらまだ返答はできない。
まだアーニャンという町がどんな町だか把握できていないからだ。
それに、せっかく異世界に転移したのだ。
どんな国や町があるのか旅をしてみたいとも思う。
日本みたいに簡単に旅ができるかどうかはわからないけれども。
「そうですか。では、私もトーキョ町のことがわかったらお知らせしますね。」
「ああ、ありがとう。とっても助かるよ。」
「いいえ。あ、私はアーリアといいます。アーリア・キャンドルといいます。」
少女はにっこりと笑って名前を教えてくれた。
ここは、オレも名乗っておいた方がいいだろう。
確か女神様の話では名字は貴族階級しかもっていないということだから名前だけを告げる。
「オレはカナタです。」
「カナタさんですね。不思議な響きの名前ですね。」
アーリアさんはそう言ってにっこりと笑った。
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