第2話

「妾は女神様なのじゃ!それ以下でもそれ以上でもないのじゃ!」


あくまでも自分は女神様だと言い切る幼女にオレは生暖かい視線を送る。


「わかった。わかった。で、女神様。オレはなんでここにいるんですか?ここは死後の世界か?」


「むぅ。納得しておらぬじゃろ。まあ、いいのじゃ。ここに人間が来るのは100年ぶりなのじゃ。寛大な妾は許してやろう。」


うをっ!?この幼女こんな見た目で100年以上生きているのか。


まったく設定に無理があるだろう。


「妾はな、お主の死が可哀想で仕方がなかったのじゃ。お主、今まで不幸続きだったじゃろ?」


「うっ・・・。」


幼女に可哀想と言われるとか。


「幼い頃は身長が人より高くて木偶の坊と呼ばれておったの。かと思えば成長期には成長が止まったゆえ、今度はチビと呼ばれるようになった。そうじゃろ?」


「・・・ほっといてよ。」


そうだよ。


幼稚園に通っていたころは他の子よりも成長速度が早かったんだ。


他の子とは頭2つぶんくらい背が高かったんだ。


でも、そこで成長が止まってしまい、皆が成長期を迎える頃にはピタッと背が伸びなくなってしまったのだ。


だから、男なのにオレは身長が150㎝もないのだ。


「それに、その身長ゆえに彼女ができたこともない。うむ、可哀想じゃのぉ。実に可哀想じゃ。それで、大学では子供扱いをされつつ陰キャとして過ごし、社会人デビューを狙っていたらブラック企業に勤めてしまったのじゃな。母親が必死になってとめておったのに、言うことを聞けばよかったのぉ。」


「うう・・・。あのときは100社以上入社試験を受けたけど、そこしか受からなかったんだよ。でも、お給料はよかったから・・・。」


「うむ。じゃが、残業代込みでこのお給料は・・・のぉ。」


「うう・・・。」


まさか求人票に書かれている月給が残業代込みだなんて思わなかったのだ。


そして、残業がこんなにも多いだなんて思いもしなかった。


「妾はお主が可哀想でならぬのじゃ。だから、他の世界で人生を満喫するのじゃ。母親にはそう伝えておくでの。」


「へ?でも、オレ死んだんでしょ?」


「うむ。死んだのじゃ。だが、特別に妾が第二の人生を送れるようにしてあげるのじゃ。」


オレは死んだというのに第二の人生とはどういうことであろうか?


転生ならわかるけど・・・。


「異世界転移より転生の方がいいのかえ?別に転生の方が妾は楽だからよいが、記憶は消させてもらうぞ?」


ああ、そういうことか。


転生だと記憶がなくなっちゃうのね。


だから、転移ということか。


でも、オレの身体は車にひかれて使い物にならないだろうし・・・。


「身体から再構築するのじゃ。」


「ええっ!?じゃあ、身長ももっと高くなるのか!?」


「うむ。高くすることもできるのじゃ。」


「頼むっ!高くしてくれ!」


どうやら身長は今より高くなるようだ。


転移だというから見た目は変わらないかと思ったが、身長が高くなるのならその方がいい。


今まで身長のことで散々からかわれて来たのだから。


「わかったのじゃ。んー、見た目はどうするのかの?」


「見た目は・・・どうしようかな。カッコイイ感じ?」


「妾の基準でのカッコイイ感じでいいかの?」


「うっ・・・。ちょっと不安かも。」


「なら、事細かく教えるのじゃ。」


「あー、でも。あんまり顔が変わっちゃったらオレがオレじゃない感じだし。母さんの面影が残ってるこの顔が好きだし。母さんに会えないなら鏡の中だけでも母さんの面影を感じたいしなぁ。」


異世界に行ってしまえば母さんとは会うことができなくなるだろう。


ただでさえ、死んでしまっているのだから母さんとは会うことができない。


シングルマザーとして一人で必死にオレを育ててくれた母さん。


これから母さんには楽をしてもらおうと思っていたのに・・・。


マザコンと言われてもいい。


ただ、鏡を見るたびに母さんを感じていたいんだ。


「なら、顔はそのままじゃな。きまりじゃ。して種族は如何にするのじゃ?」


「・・・種族?人間だけじゃないのか?」

種族まで選べるのか?


人間とか馬とか犬とか猫みたいなものだろうか?


いや、でも顔が今のままで馬や犬や猫だったら半獣人ではないか。


オレが転移する世界には獣人でもいるのだろうか。


「お主のいた世界とは違うのじゃ。魔族もエルフもいるのだぞ。お主のいた世界にゲームというものがあったであろ?あれに出てくる者は実在するのじゃ。」


「えっ!?」


魔族やエルフまで実在する世界なのか。


それって、人間のままだと生き辛かったりするのではないだろうか。


魔族やエルフが存在するのであれば、人間なんて無力なような気がする。


「魔族やエルフと人間の関係は良好なんですか?」


「ふむ。して、職業は何を選択するのじゃ?」


「えっ!?今は種族の選択の話では・・・。」


「お主は決めるのが遅いのじゃ。時間がないゆえ、種族については妾が決めさせてもらったのじゃ。」


「ええっ!?」


いやいやいや。


自分のこれからの人生がかかっているのだから、種族は慎重に選ぶに決まっている。


種族間の敵対状況とか気になるでしょ、普通。


人間は魔族に恨まれてます~とか、獣人は奴隷です~とかそういうのがあるんじゃなかろうか。


「して、職業は何にするのじゃ?」


どうやら何を言ってももう種族の変更はできないようです。


でも、職業ってなに?


今ここで決めなきゃいけないの?


職業って生活していくうちに、こんな職につきたいなぁ~あんな職につきたいなぁ~って感じで選ぶんじゃないの?


しかも、異世界だよ!


どんな職業があるかわからないし、今までの世界と同じ名前の職業だったとしても実は全然違う職業でした。


って、こともあるかもしれないではないか。


「・・・どんな職業が選択できるんですか?」


それに、異世界にはどんな職業があるのかもわからない。


まずはどんな職業があるのかを聞いてみた。


「いっぱいじゃ。いろんな職業があるのじゃ。」


「・・・。」


聞いたオレが間違っているのだろうか。


答えになっていない答えが返ってきた。


「・・・職業は後からでも変えられるんですよね?」


どんな職業があるのかもわからないのに、安易に決められない。


なので、後から職業を変えることができるのかを確認してみる。


これ、後から職業は変えられませんって話だとやっかいなんだけど。


しっかりどんな職業につくか決めなければならないし。


「変えられぬぞ。一度決めた職業は生涯変えられぬのじゃ。本来なら生まれた時には職業が決まっておって自分では職業は選べぬのじゃ。しかし、お主は今ここで職業を選べる。すばらしいことじゃな。」


「・・・マジかよ。」


この世界の人たちは自分の職業が選べないのかよ。


生まれた時から職業が決まっているってすごいな。


っていうか、生き辛くはないのだろうか。


「早く決めるのじゃ。」


そう言って女神様は急かしてきた。


急かされても生涯職業を変更できないんであれば、職業選びにも慎重になるからすぐには決められない。


選んだ職業に適性がなかったらどうしてくれるんだよ。


一生を棒にふるようになるぞ・・・。


「・・・王様、とか?」


「ふむ、新しい国を作るのかえ?知らない国で一人で一から国を作るのは大変だとは思うがのぉ。それでも構わぬなら王様にするぞえ。」


「・・・やめときます。」


どうやら最初から王様として国の頂点に立てるわけではないらしい。


国を作るところから始めるだなんてなんてハードなんだろうか。


っていうか、地雷職業じゃん。


下手したら国なんて作れない可能性もあるし。


しかも、一人でだなんて・・・。


まあ、仲間を集めればいいんだろうけど、集めるところからして大変そうだ。


「じゃあ、何にするのじゃ?」


「あの、その職業を選んだとして適性がなければやっていけないかと思うのですが・・・。オレに向いてる適性ってなんでしょうか?」


今までみたいな激務はしたくない。


日本では嫌になれば仕事を変えることはできるが、これから転移する異世界では職業が決まっているから変更することができない。


そうならば、適性がある職につきたいというものだ。


「・・・?なにを言っているのかえ?職業を決めると自動的に適性が付与されるのじゃ。料理人ならば、他のものよりも料理の腕が良くなるのじゃ。他の職業の者がどうあがいても料理人の職業に生まれながらついているものには敵うまい。」


女神様は何を当たり前のことを聞くのだとばかりに不思議そうに答えてくる。


なるほど、職業を選べばその職業に必要な適性が自然と備わるというそういう話か。


それであれば転職しなくても適性があるのだから苦労することはないだろう。


そういうことであれば、どの職業を選んでもよさそうだ。


ただ、王様になるにはどうやら王家の血筋等でない限りは適性があっても実力で成り上がる必要があるようだ。


でも女神様に聞いた話だと大変そうだし、それならば最初から楽な職業の方がいいかな。


今までみたいに毎日仕事漬けというのは嫌だしな。

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