第25話 たがやすぞおおお
「よおおっし、集合ー!」
朝の狩りを終えた後、狩猟のお手伝いをするゴブリンたちと共に高層ビル前に戻る。
お食事も済んだところで彼ら全員に集合をかけた。
「みんなの頑張りがあって、魔王ビルの周囲もすっかり綺麗になった。肉も余るくらい確保できているし。燻製にして保管する肉も少しずつではあるけど増えてきた」
「ごぶー!」
「おう」とゴブリンたちが両手をあげ、気を吐く。
「そこで本日は、いよいよ畑を作ろうと思う」
あれ? 反応がないな。
さっきまであれだけ俺の言葉に対し騒いでいたゴブリンたちがまるで無関心なんだけど……。
う、ううむ。あ、そういうことか。
「畑に種をまいて、水を毎日あげると小麦と大麦になるんだぞ! 食べ物だー!」
「ごぶううううう! いよいよごぶー!」
おっけ、おっけ。
畑だけだとピンとこなかったのね。
「よおし、ならば問おう。畑を耕すかー?」
「ごぶー!」
「耕したいかー?」
「ごぶー!」
よしよし。ゴブリンたちの熱の籠もった絶叫が心地良い。
耕す土地は高層ビル東350メートル地点から、どごーんと始めよう。
ゴブリンたちに「しばし待て」と告げてから、ラウラと共に目的地点へ進む。
この辺は周囲に木々がない荒地となっていた。差し当たり500メートル四方を開梱するか。
「ラウラ。砂埃が凄いと思うからこれを」
「うん?」
「ルルー、こっちへ」
鼻から下を覆うように布で縛る。ルルーにも同じようにつけてやった。
ラウラもまた見様見真似で布で口元を覆う。
「それじゃあ、始めるよ」
一人と一匹が頷くのを待ってから、脳内に映像を思い浮かべる。
上手くいってくれよお。
「出でよ! 容赦ない槍衾!」
ドカドカドカドカ!
上空に剣山のように密集した槍が出現し、一斉に地面へ突き刺さる。
50センチ以上は穂先が地中に入っているかな。なかなかよい威力だ。
お次はっと。
槍の上から直径40センチほどの鉄球が降り注ぎ、更に槍を地中に押し込む。
「な、何してるの、こ、これ? 凄いのは分かるんだけど」
耳をペタンとさせたラウラが首を傾げ問いかけてくる。
「地面を柔らかく。そして、埋まった石なんかを砕くためにと思って」
彼女に回答しつつ、槍と鉄球を消し去る。
「ここから、少し掘り返そうと。出でよ」
ノミが巨大化したようなものが斜めから地面へさくっと突き刺さる。ノミの柄を叩くように鉄球が空から降ってきた。
ガチーンと鉄を打ち合わせたような高い音が響き、ノミが土を掘り起こす。
「お、いい感じ。どんどんいこう」
同じことを繰り返し、荒地が大雑把に掘り返され、耕作地候補が出来上がったのだった。
「仕上げにゴブリンたちと一緒にクワを持って耕そう。そんで、種も撒いちゃおうぜ」
「う、うん。大賢者様の畑って、なんだか……」
『なかなか見応えあったもきゃ。いつも地味だからもきゃ。あと、一つ忘れてるもきゃ』
肩まで登ってきたルルーが俺の首を小さな爪で引っ掻く。
覚えているってば。あえてスルーしてただけなのに。
「分かった分かった。耕した後にちゃんとやるから」
『忘れるなもきゃー」
「はいはい」
すぐ忘れると思っていたのに、案外執着しているなあ。ルルーの壁画の件……。
ラウラの絵があるからすぐに実装できるが、まあいいか。描いた後にすぐ消してルルーがどんな顔をするか観察するのも楽しそうだ。
パンパンと付着した砂ぼこりを払い、ゴブリンたちの方へてくてくと歩いて行く。
彼らは皆一様に静まりかえり、固唾を飲んで耕作候補地に目をやっていた。
「さあ、ゴブリンたちよ。出番だ!」
「魔王の力、恐れいったごぶー。ちょっとだけごぶよりやる奴ごぶ」
代表してゴ・ザーが、褒めてくれる。
さすがのゴブリンたちも槍やら鉄球やらが降り注ぎ、盛大な砂煙を前にすると思うところがあるようだ。
建物をどーんと建てた時よりは驚いている気がする。彼らにとっては、武器とか自分に身近である方が反応するらしい。
「止まっている場合じゃない。ほら、これを持て。クワといってな。使い方はラウラと俺が手本を見せる」
「ごぶ?」
「畑だ。畑を完成させるんだよ!」
「ごぶー! 畑ごぶー!」
ようやく分かってくれたらしい。先ほどまでの態度もどこへやら、ごぶごぶと盛り上がるゴブリン達。
「出でよ!」
ずらーっとクワが積み上がる。
一本手に取り、ラウラに。もう一本は自分で持つ。
「よおっし、見ていろよー。今日中に種まきまで終えるからなー」
「ごぶー!」
クワを構え、振り下ろす。
ラウラも俺に並び、同じようにクワで土を掘り返すのだった。
◇◇◇
畑を作ってから、早三日が経過しようとしている。
早くも新芽が出始め、茶色の地面に緑色が混じる様は見ていて感動した。
これから日を追うごとに、緑が大きくなっていくことだろう。
狩猟も採集も順調で、蓄えも増えてきた。
このままいけば冬までに一回畑の実りを収穫できそうだし、冬を越すことも問題ないはず。
果樹園とか牧場とかも作っていきたいところ。と言っても、果実の成る木は接ぎ木でなんとかできるかもしれないけど、家畜の方はどうしようもないなあ。
住んでいた街から仕入れるか、鬼族が家畜を飼っていたら分けてもらうか……外部に頼る以外に手段が思いつかない。
野生のイノシシとかだと、家畜化するまで年単位の時間が必要だ。
順調そのものなんだけど、一つ気になることがあった。
『素晴らしい壁画もきゃ』
肉を貪りながら、水飲み場タワーを眺めご満悦の様子なのはルルーである。
タワーの壁はフクロモモンガが四面に描かれいた。もきゃーと腕を開き滑空している様子は躍動感があり、中々の作品だと思う。
今晩、ルルーが寝た後にでも消してやろうか。くくく。
俺たちは今、狩りを終え、昼食をとっていた。
この後は畑仕事の予定だ。
「毎日、お腹一杯食べられて幸せ」
「そうだな。食は基本だよな、うん」
「立派な建物もあるし、水も豊富。村で暮らしていた時より快適よ」
そう言ってはにかむラウラに俺も口元が緩む。
俺もラウラやルルーがいてくれて、充実した暮らしを送れていると思っていた。
孤独で暮らすより、仲間がいた方が生活が色づく。喋っていると心も安らぐ。
そうそう、気になることだったよな。
そいつはもちろん、フクロモモンガの壁画ではない。
ラウラのことなんだ。今晩、聞いてみることにしよう。いつまでも聞かぬまま座りが悪いってのは性分に合わない。
彼女の核心に触れてしまい、嫌われてしまうかもしれないけど、ずっとやっていこうと思っている仲間なんだ。
だからこそ、腹を割って話をしたい。
「ごぶー! ごぶー!」
ん、何やら東の方角にいるゴブリンたちから騒ぎ初めているな。
何かあったのだろうか?
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