第19話 ニュータワー

 高層ビルに戻ると、思った以上に清掃作業が進んでいて驚く。

 食べ物に関わらない作業だったから、下手したら手を付けていないかもなんて思っていて正直すまなかった。

 彼らは彼らなりに頑張って働いていてくれていたようだ。

 

 よおし、ならば俺も彼らに応えないとな。

 大蛇と飛竜は一口サイズになるよう肉を切り分けて、大鍋でぐつぐつと煮込む。

 もちろん、ゴブリンたちと一緒になって作業に勤しんだ。

 ラウラにもゴブリンたちを率いてもらい、採集してきたキノコを始めとした植物類を下処理して鍋にどーんと。

 味付けは香草と塩、コショウを使う。

 

 火を焚くための燃料はどうしたのかって?

 そいつはもちろん創造スキルで作り出した。火をつけるのも火打石で。

 火打石は街で生活していた時にずっと使っていたので、創造するのも容易かったのだ。毎日見ていて使っていたものだと、頭の中で詳細にイメージできるから。

 

「よおおっし、できたぞおお。並べー」

『ごぶー!』


 ゴブリンたちから歓声があがる。

 ちゃっかり先頭に並んだのは、ゴ・ザーであった。さすがゴブリンの王を自称するだけある。並み居るゴブリンたちを押しのけてトップに立った。

 しかし、ゴブリンたちはゴ・ザーをリーダーとして信頼しているように見えたのだけど、食べ物となると話は別なんだな。

 先を争ってごぶごぶと言い争いまでする始末。

 

「仲良く並べないのなら、ご飯は無しにするぞ! ゴ・ザー。ちゃんと言い聞かせてくれ」

『わ、分かったごぶ。お前ら―。飯抜きになるごぶー。喧嘩したらご法度ごぶ!』


 小さな鍋と鉄のお玉を打ち鳴らし、彼らに再度呼びかける。

 ようやく静かになるゴブリンたちにほっと胸を撫でおろす。

 このまま放っておいたら、並ぶことを争って怪我しそうな勢いだったからな。

 

「よおし、じゃあ、順番に配っていくからなー。大丈夫だ。全員分あるからな!」


 木製の器を手の平に出し、おいしそうな湯気があがる大鍋からお玉で中身をすくう。

 

『ありがごぶー』

「おう、次の人どうぞー」


 流れ作業で器を出して、すくって、出して、すくってを繰り返す。

 全員に配り終わってもまだ五分の一ほど残った。

 

「ラウラ。お待たせ」

「ううん。明日からは私もお手伝いさせてね。一人でゴブリンさん全員は大変」

「助かる。器は毎日新しくした方がいいかなと思っててさ」

「洗うのも大変だもんね」

「そそ。あ、そうか。洗えるようにすればいいのか。農業をする時にも必要だし、先にやっておこうか」

「うん?」

「先にと言っても、明日の朝にしよう。さっきからもう腹が悲鳴をあげっぱなしでさ」


 たははと笑うとラウラもくすくすと口元に手を当てる。


『もう喰えないもきゃー』

「にゃーん」


 ゴブリンたちに先んじて食事を楽しんでいた二匹はその場に寝そべりご満悦な様子。

 こいつらが待てるはずがないので、横から邪魔されるより先に餌をやってしまおうと一番最初に食事を分配しておいたんだ。

 

 ◇◇◇

 

 ――翌朝。

 昨日と同じものになるけど、肉と野草の余りを継ぎ足して鍋を分配する。


「さてとお。じゃあ、一丁やるか」

「うん。何をするのか楽しみ!」


 あ、そうか。そうだった。

 創造スキルは高層ビルのような超巨大な建造物を作ることはできるが、「地形を変える」ことはできない。

 深い穴を掘って湖を作ろうかと思っていたのだけど……どうしたものかな。

 巨大なコンクリート製の箱を作って、その中に水を入れるって手段はある。だけど、それじゃあちょっと見栄えが……あ、蛇口をつけたら水道代わりに使えそうだ。

 水圧があるから、邪口を捻るだけでどばどばーと水が出てくるはず。トイレもこの方式でいけそうだ。

 水を補充するのが面倒か。いや、水量を多くすればそうそう使い切らないか。

 

「物は試しだ。水柱用タワー」

「きゃ!」


 突然の出来事にラウラが悲鳴をあげ、その場でペタンと座り込む。

 それもそのはず。30メートル四方の正方形をベースに高さを60メートルの巨大すぎるスカイブルーに塗られた建物が一瞬にして出現した。

 これ、中は空洞になっていてさ。

 

「更に追加だ。出でよ」

 

 見えないながらも中を水で満たす。

 更に下部に蛇口、シャワーを取り付けた。

 

「後は、お、そうか。ここで水浴びもさせるつもりだから、壁で取り囲んでおくか」


 別にゴブリンたちが裸を見られてどうこうはないだろうけど。


「俺たち用のは風呂も今晩改装しよう。この方式でシャワーが使えるようになるはず」

「び、びっくり。こうなるなら、一言欲しかったわ……」

「ごめんごめん」

 

 座るラウラに手を差し伸べ、彼女を引っ張り上げる。


「湖を作りたかったんだけど、穴を掘る手段が思いつかなくてさ」

「そうだったんだ。大賢者様は水ならいくらでも出せるの?」

「うん」

「自然に低くなっている場所に壁を作って、水を湛えたらどうかな?」

「それがいいか。いい場所があれば、そこを湖にしようか」


 うんうんとラウラと頷きあい、どちらともなしに真っ青に塗りたくられた建物を見上げる。

 ペンキで一色に塗ったように見える外壁は……ちょっと見るに耐えないなと我ながら思ってしまった。

 

「もうちょっと、見栄えよくしたいな……。ラウラ。この壁をキャンパスだと思って、何か絵を描いてくれないか?」

「え、こんな大きな壁に描けないわ……」

「スケッチブックにでいいんだよ。それを俺がこの壁に転写するから」

「私の絵が、ここのシンボルに……責任重大ね……」

「描き直しも何度だってできるから、気楽に」

「う、うん」


 顔がひきつるラウラの肩をポンと叩く。

 彼女が一体どんな絵を描くのか今から楽しみでならない。

 

 ゴブリンたちに水場の使い方を教え、本日も狩りに出かける。

 さあて、今日もガンガン獲物を狩って、探索に向かうとしよう。

 

 ゴブリンたちの清掃作業が終わるまでには、農業の目途をつけたいところだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る