第13話 名セリフ
『我こそは、偉大なるゴブリンの王「ゴ・ザー」』
ゴブリンたちが割れ、なんか偉そうで変なゴブリンが前にでてきた。
そいつは他のゴブリンたちより頭一つ大きく、がっしりとした体つきをしている。
鹿の頭蓋骨をかぶり、動物の骨でつくった首飾りをつけていた。上半身は裸で茶色い毛皮を腰巻にしている。
肌の色も他のゴブリンと異なり、薄緑ではなく濃い緑色をしていた。
ともあれ、言葉が通じ、一応会話を交わせそうなことに安堵する。
「お前がこの集団の頭か?」
『ごぶは王ごぶ』
とってもダメな感じがするけど、ここで対話を打ち切ってはダメだ。
「……よく分かった。さっきも聞いたが、俺の土地に何用だ?」
『天国の階段を見つけたごぶ。獲物も豊富そうごぶ』
「つまり、俺の土地へ無断で踏み込もうというわけか?」
『いくら魔族とはいえ、ごぶたちがたった一人におくすとでも思ったかごぶー!』
ぐ、ぐう。
こう何というか、言葉は通じるのに話が通じないとでも言えばいいのか。
もどかしさを通り越して、脱力感が酷い。
「あれか、天国の階段というのはあの建物のことか?」
ここからでも高層ビルはよく見える。むしろこれくらい離れていた方が全体像が見えてよいかもしれない。
『そうごぶ』
当然のように、腕を組み大仰に頷くゴ・ザーと名乗ったゴブリン。
「あれは、俺が建てたものだ」
『天国の階段はごぶが見つけたごぶ!』
こいつう、キラキラと輝く少年のような目をしやがってえ。
自分が第一発見者で、高層ビルが自分のものだと心から信じている様子に変な笑い声しか出てこない。
勝手に変な名前までつけやがって。
そんな俺に対し、何を勘違いしたのかゴ・ザーは勝ち誇ったようにふんと胸を張り、仲間のゴブリンたちに呼びかける。
『天国の階段は誰のものごぶー?』
『ゴ・ザーさまのものごぶ!』
『ゴ・ザーさま!』
謎の「ゴ・ザー」コールが沸き起こった。
頭痛が痛い。この表現はもちろん間違っていることは分かっている。
だけど、そう表現するのが的確だと思ったまでだ。
どうしたものか。
よし。
「出でよ」
右方向に手を掲げる。
次の瞬間――
そそり立つ10メートルの柱が顕現した。
途端に盛り上がったゴブリンたちが静かになり、皆一様に柱を凝視して固まっている。
「こうやって『天国の階段』を建てたんだ。そもそも、俺が『天国の階段』からきていたのはお前たちも見ていただろ?」
『どうやら、ごぶかお前、どっちが天国の階段を持つ者か雌雄を決せねばならぬごぶ』
『魔族など恐るるに足らずごぶー!物どもであえであえーごぶー!』
『ご、ぶーー!』
「ちょ、おま」
こういう時は一対一で決着つけるんじゃないのかよ!
締まらない勇壮……とは言い難い雄叫びをあげたゴブリンたちはゴ・ザーを先頭に突進を開始する。
も、もう。何だかなあ。
来る前はあんなに緊張したってのに。もはや心臓も平常時に戻っていた。
「あのバクバク感をかえせえ! アルティメットマジック、ウォーターハンマー」
声が終わると同時にゴブリンの固まりの前、右、左から100メートル近い幅がある高い滝壺を落ちてきたかのような水の塊が、横なぐりに襲いかかっていく。
魔法ぽくやってみたが、もちろん創造スキルの力である。
『な、なんだと! ごぶー!』
ゴブリンたちから悲鳴があがるも、それも無慈悲な水の塊が飲み込んでいく。
直後、消えろと念じ全ての水を消し去った。
後にはほぼ半数が吹き飛ばされひっくり返っているゴブリンたちと、残された者たちの呆気にとられ完全に固まったゴブリンたちだけが残る。
あ、いくつかの低木も巻き込んでることはご愛敬ってやつだ。
「たった一人と侮るからだ。何の考えもなしに突っ込んできやがって」
「ふん」と顎をあげ、倒れたゴブリンたちを見下ろす。
我ながら偉そうな態度にちょっとやり過ぎたかと思ったりしたけど、気にしたらいけない。こういう話の通じない奴らは締める時に締めとかなきゃ、また同じように挑んでくるだろう。
でも俺は既に彼らを脅威ではないと見ている。
ここまで直情型なら、四六時中、数人で俺をつけ狙うなんてことをやらない。いや、やろうとする発想自体が無いと言い切れる。
そのままゴブリンたちの出方を伺っていると、無事だったゴブリンたちがくるりと踵を返し……一斉に逃げ出した。
あっさりゴ・ザーを見捨てて。
まあ、自分の命が一番大事であることは当たり前だからな。
弱肉強食のこの世界、最後に生き残った者が一番ってことさ。
だけど、そうそう思い通りに行くものじゃないんだぜ。覚えておくといい。
足元から一瞬にして柱が出現し、俺の視界が3メートル高くなる。
ここからなら奴らが逃げる様子がよく見えるぜ。
「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない……」
往年の名セリフでカッコよく決め、左腕を空へと掲げる。
逃げる先から津波が押し寄せ、ゴブリン達を反対方向――つまりゴ・ザーたちがいる場所へ押し流す。
重なり合うゴブリンたちはうめき声をあげている。
そんな中、ゴ・ザーが真っ先によろけながらも立ち上がった。水に吹き飛ばされたのか鹿の兜? がどこかにいっている。
『ま、まさか。魔族の中の魔族『大魔王』だったとはごぶ……』
「あ、いや」
さっきのは有名なパロディなんだと説明するか迷ってしまった。
これがいけなかったのだ。
俺の肩に乗りずっと様子を窺っていたフクロモモンガが唐突にわさーっと両腕を開き口を挟む。
『オマエ、上位魔族の中でも最強の『大魔王』だったのかもきゃー。間抜けな顔をしているってのにもきゃ』
『やっぱり大魔王ごぶー。あれは「天国の階段」じゃなかったごぶー』
お、おいおい。
ルルーにゴ・ザーがのっかり、更にゴブリンどもも何やら叫び始めた。
『魔王城ごぶー!』
『あれは魔王城だったごぶー!』
『天にも届く魔王城だったごぶー!』
こ、こ、こいつら。
「勝手な事ばっか言いやがって! あれは、魔王城なんかじゃねえ!」
『な、何だと……ごぶ!』
いちいち大げさな反応を返すゴ・ザーに辟易しつつも言葉を続ける。
「あ、あれはだな。え、ええと。ビルだ。城ではない」
『魔王ビルだったのかごぶ!』
「も、もうそれでいいや」
『魔王となれば、いくらごぶでもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ相手をするのはしんどいごぶ』
ある意味すごいなゴ・ザーのやつ。
あれだけこっぴどくやられた直後なのに、この態度……。
「三度目になるが、ここは俺の土地だ。帰った帰った」
『そうはいかないごぶ。ごぶはゴブリン300人の王ごぶ』
いっそもうこのまま亡き者にしてしまうか……なんて昏い気持ちが首をもたげる。
ところが、右手をあげかけた俺のほっぺにくっつきそうなほどピンク色の鼻をよせたルルーが待ったをかけた。
『下級モンスターの言葉を聞くのも魔王の器の大きさもきゃ』
「そうだな。一応、事情だけでも聞くか」
気を取り直し、ゴ・ザーに目を向け彼に問いかける。
「お前らは、ここより東の平原で生きてきたのだよな?」
『そうごぶ。ごぶはゴブリン300人を護らなければならないごぶ』
そう言って語りはじめたゴブリンの王「ゴ・ザー」の言葉は意外にも配下のゴブリンを慮った深刻なものだった。
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