第17話

 倉持という刑事から連絡があった。息子の日継が行方不明になったという。


 私は協力者を急いで呼び出し、黒鱗村へ車を走らせた。


「ああ! 私が馬鹿だった。日継の友達が行方不明になった村に、一人にさせなきゃ良かった!」


 私は車を運転しながら、後悔の念に苛まれていた。


「仕方ないですよ。東子さんは東京で重要な仕事をしていたんですから!」


 助手席に座る協力者が言った。彼女は羽賀はが まい。大学の研究員である。


 引っ越しの前に、今回の件を羽賀に相談した。すると彼女は、謎に対して科学的なアプローチが出来るかも知れないと、自ら協力を買って出たのだ。


 実際、素人である私たちは警察が調査している事に首を突っ込もうとしている。警察が解明出来ていない謎に対して、警察の真似事で解決できる訳がない。なので羽賀のような協力者は、とても有り難い。


 やがて、引っ越し先に着いた。高羽市にあるマンション。その駐車場に止めて、私たちは下車した。もう外は真っ暗だ。


 羽賀は大きな荷物を抱えている。協力の際、彼女は久遠家の新居へ同棲することになっている。この村は危険だ。女性である羽賀を一人にする訳にはいかない。それに息子が行方不明になった今、私も一人でいるべきでない。


 私たちはマンション内に入り、エレベータに乗った。そして部屋のある階のボタンを押下した。その直後、マンション入り口から女性が入ってきた。恐らくこのマンションの住人だろう。


 エレベータに乗るはずなので、私は開けるボタンを押して彼女を待ってあげた。すると彼女も察した様で、早歩きで近寄る。


「すいません。ありがとうございます」


 そう言いながら彼女はエレベータに乗った。礼儀の正しい子だ。よく見ると制服を着ている。もしかして、日継と同じ学校かもしれない。


「ねえ君。久遠日継って子、知ってる?」


 私は彼女に聞いてみた。すると彼女は案の定、ピクリと肩を震わせた。そしてゆっくり、こちらへ向いた。


「どうして、久遠君のことを……?」


 彼女は不安そうな表情を浮かべていた。


 私は彼女に日継の母であることを告げた。そして彼女の名が、志田凜という子であることを知った。志田は久遠とそこそこ仲が良かったそうだ。


「へえ、息子と同じマンションに住んでいたんだ」

「はい。でも初めて知りました。私は部活に入っていたので、帰るタイミングがバラバラだったんです。朝も、私は早めに登校していたので」


 すこし髪型や服装がちょっと乱れているけれど、気さくで良い子という印象だ。部活に入り、早めに登校しているあたり、見た目に反して真面目な子なのだろう。


「息子が行方不明になったの。知ってる?」


 私は核心に触れてみた。


「はい」


 彼女は表情を曇らせて、短く言った。


「どこにいるか、分かる?」

「いえ」

「どうして行方不明になったのか、分かる?」

「それも、分かりません」


 そんな問答をしていたら、エレベータが止まった。


「じゃあ、私はこれで」


 彼女はそう言ってエレベータを降りた。

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