第14話

 翌日。今日は龍の舞を行う日だ。


 俺はその儀式を見るために、友人を何人か呼んでいた。


 俺は鳥居の前で友人達を待っている。周囲を見渡すと、提灯があちこちからぶら下がっており、屋台が立ち並んでいる。


 夏に行われる龍の舞は ”夏の儀” と呼ばれている。年に4回ある内の中でも、特別な儀式だ。夏頃に行われるということもあって、夏祭りも兼ねた盛大な催しとなっている。


「久遠君、お待たせーっ!」


 遠くから俺を呼ぶ声がして、振り向いた。振り向いた先には、浴衣姿の女子が二人、こちらに歩み寄っていた。崎守と志田だ。


「二人とも、着物が凄い似合うな」


 俺はそう言って二人を見た。崎守は青い着物を、志田は黄色い着物を着ている。着物を着ているだけなのに、何だか別人の様だ。特に志田は普段のギャルっぽい雰囲気とかけ離れていて、大和撫子といった感じである。


「ふふ。ありがとうございますっ!」


 嬉しそうに崎守は言った。


「じゃあ、早速行こっか。もうすぐ龍の舞の時間だしね」


 志田がそう言うので、俺たちは鳥居をくぐって拝殿へ向かう。道中には屋台が沢山陳列している。田舎だというのに、人も多い。


「それでも、去年よりは全然少ないよね」

「前回に事件があったので、皆怖がっているんですよ」


 と二人は言った。


 やがて儀式の舞台付近まで来た。黒鱗神社の大きな拝殿。その付近にある木造の大きな舞台。そこには既に三味線を構えた演者と、桶同太鼓おけどうだいこを構えた演者が所定の位置にて座って構えていた。


 そしてその演者二名は、龍の仮面を付けている。


――ベン、ベン。

――ポン、ポン。


 三味線と太古が鳴り響いた。ざわついていた観客は途端に静かになった。


 しめやかなる三味線と太鼓のBGMに合わせて、4人が舞台袖から登場した。倉持の言う、ゲストというやつだろう。


「あの4人は、言い伝えで言うところの ”生け贄” なんですよ」


 崎守が解説した。


「生け贄……。龍が村に要求した、対価というやつか」

「はい。そうです。なんだ、知っていたんですね」


 ジロリと、崎守はこちらを見つめた。


「どうして、知っているんですか?」


 その物言いは、まるで俺が知ってはいけないとでも言いたげであった。


「ちらっと聞いたんだよ」

「へえ。今時、言い伝えを話のネタに使う人達が、いるんですねえ?」

「そうだな。龍の舞が近い日だったからじゃないか?」


 すると崎守は沈黙した。


「なるほど、そうなのかも知れませんね」


 やがて、ニッコリと微笑んでそう言ったのだった。


 崎守とそんなやり取りをしている間に、生け贄役は舞台手前の位置に着いた。すると、BGMがピタリと止んだ。


 舞台周辺が深閑とする。不思議な緊張感に包まれる。


――ベン、ベン。

――ポン、ポン。


 再度、三味線と太鼓が鳴り響く。そして舞台袖から、さらに演者が現れた。


――ドクンッ。


 その姿を見た途端、心臓が強く脈打ったのを実感した。


 舞台袖から現れた演者は、白と紅の巫女装束を着ている。黒髪は長く、胸元が膨らんでいるから、恐らく女性だ。両手には、二刀の短刀を持ち、そしてやはり龍の仮面を付けている。


 間違いない。


 ビデオカメラに映っていた、林の首をはねた格好そのものだ。

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