第10話

 翌日。学校は休みなので、俺は黒鱗村を散策することにした。


 黒鱗村は、高羽市の一部である。山々に囲まれており、田畑が多くを占めている。その山と山の隙間を進んでいくと、平地にある高羽市の街に辿り着く。ここにはスーパーやコンビニ、レストランや喫茶店などの店が多くある。実は倉持と話しているのはその喫茶店である。


 そして俺が住むマンションは、その高羽市内にある。なので黒鱗村の龍の呪いからは、一応条件から外れる。ただ、黒鱗村と高羽市の境界は曖昧だ。俺が通っている学校は黒鱗村内にあるとされているけれど、周囲は高羽市の街の面影が強く残っている。村が市に吸収され、街の近代化が村を浸食しているのだ。


 今は一人暮らしだ。記者である母は東京でやり残した仕事を消化している。


 俺はそのマンションの部屋を出た。そして高羽市の歩道を進んでいく。その道中に公園があって、俺は何気なくその公園内を見た。


 公園内には、奇妙なモニュメントらしきものが立っている。円筒型のそれは、全体がアルミで出来ている様だ。太くて、公園内にある滑り台よりも少しだけ背が高い。


 これは黒鱗村の神社付近にもあるし、高羽市ではここの公園以外にも設置されてある。何故あるのか、何の為にあるかは一切不明であった。


「あれ、隼人か?」


 公園内で背の低い、見知った男子がキョロキョロと周囲を見ていた。東雲隼人。行方不明となった林辰巳が部長の映像部に所属している部員である。


「おい隼人。どうしたんだ?」


 俺は公園内に入って、隼人に声を掛けた。


「ああ久遠君。ここに設置したビデオカメラがなくってさあ」

「ビデオカメラを設置?」


 と俺は隼人の言葉を繰り返したところで、思い出した。そういえば映像部はミュージックビデオを撮っていて、公園の一日の映像を倍速で流す予定だったのだ。


 隼人はその撮影の為にビデオカメラを公園内に設置した。そのビデオカメラが見当たらないのだろう。


「どこに設置したんだ?」

「ほら、あそこだよ」


 隼人は公園の隅にある街灯を指差した。近くにはベンチがあって、街灯の奥は垣根用樹木が並び、さらにその奥にはフェンスが設置してある。


「街灯に付けてたのか。じゃあ、落ちちゃったんじゃないか?」


 俺はとりあえず思いついたことを述べてみる。


「でも、どこにも落ちてないんだよね」

「あの木とフェンスの裏は探した?」

「え、ああ、まだだ」

「じゃあ、そこじゃないか?」


 俺はそう言いながら、垣根用樹木を見る。公園の内と外を遮るように、枝と葉が密集している。掻き分けて進むことは可能だが、せっかくの垣根がぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。


「僕が裏から回ってみるよ」


 と隼人が言った。隼人は小柄だから、垣根とフェンスの狭い隙間を進めるかも知れない。


「よし、それでいこう」


 俺が言うと、隼人は公園の端に向かった。垣根が途絶えたそこは、フェンスのみで仕切られている。隼人はそこをフェンスに沿って進んで、やがて垣根とフェンスの隙間に入って、こちらへ向かってくる。


「あ、あった!」


 街灯付近の場所まで辿り着けた隼人は、無事にビデオカメラを見付けたのだった。隼人はベンチの場所まで来ると、そこに腰掛けてビデオカメラを確認した。


「うわぁ、汚れちゃってるや」


 隼人の言う通り、ビデオカメラは赤茶色い液体と、土が付着していた。


 俺はその赤茶色の液体に違和感を覚えた。そんな色の液体なんて、この公園内にあるだろうか。


「大丈夫かな。壊れてないと良いけど」


 と言いながら隼人はビデオカメラを操作した。するとカメラの電源が入った。


「あ、点いた」

「でも、撮りっぱなしなら充電が保たないだろ。こりゃ落ちた衝撃で電源が落ちちゃったな」

「ええ、じゃあ撮り直しかな」


 隼人はそう言って、録画された映像の確認を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る