第8話
学校の授業が終わって、放課後。俺は学校を足早に出て、昨日の喫茶店へ向かった。
喫茶店には既に倉持がいた。昨日と同じ、一番隅の二人用の席。そのテーブルにはコーヒーが置かれていて、既に何口か飲んだ形跡が見受けられた。
「ああ久遠君。こっちこっち」
と倉持は気さくに俺を呼んだ。俺は席に着いて、ミルクティーを注文した。丁度同じタイミングで、店内全体が揺れ始める。ガタガタとコップなどが振動する音が響く。
「おや、地震ですね」
倉持が言った。やがて揺れは収まった。
「震度3くらいですかね。やれやれ。最近、地震が多い気がしますよ」
ガハハ、と倉持は笑った。
「倉持さん。うちの学校で生徒が一人、龍隠しに遭ったそうですが」
気を取り直して、俺は気になっていたことを尋ねた。
「ああ、もう聞いていますか。ただ昨日も言ったとおり、龍隠しは情報が少ないんですよ。現在調査中ですけど、恐らく教えられる情報は今後増えないかと」
「そう、ですか……」
俺は落胆した。行方不明になった相楽の所在を知る手がかりが少しでもあればと思っていた。
「というのも、まるで消えたかのように行方不明になっているんですよ。何の前触れもなく突然に、痕跡も残っていない状態で、人がいなくなっている。なので捜査はしているんですけど、一向に進まないのですわ」
「被害者に共通点はないんですか?」
「ありません。直近では久遠君が通う学校の生徒二人ですが、もっと前に遡ると大人がいなくなっています。性別も男女満遍なく被害に遭っている。性格も当時の交友関係、家庭内環境も一貫性がない。お手上げです」
やれやれ、と倉持は自嘲するかのように笑った。
「まあ、そういう訳ですので。今日は昨日の説明の続きをしようかと」
「ええ。そうですね。お願いします」
俺が言うと、倉持は懐から手帳を取り出した。
「では久遠君のお父さん、宏さんが調査した事件の一つである、龍の舞殺人事件を説明します」
倉持はそんな切り出しで説明をした。以下はその概要である。
黒鱗村は通称である。すぐ近くにある高羽市の一部である。ある日、高羽市からダム建設の話が持ち上がった。そのダムの建設には、村を沈める必要があった。ダム建設に関して村人達は表向き賛成の意を表していた。なのでダム建設は順調に進行していた。
一方、黒鱗村では年4回 "龍の舞" という儀式を行っている。これは言い伝えであった『龍が要求した対価』を供える儀式であった。現在行われている龍の舞は無病息災のようなおまじないの意味合いで行われている。
その龍の舞に、ダム建設の責任者が参加した。そして、龍の舞の儀式の途中で、惨殺されたそうだ。
「久遠君は龍の舞をご存じで?」
「いえ、初めて聞きました」
「龍の舞の内容を説明しますとね。まず舞台があって、舞を踊る人がその舞台に立つ。三味線と太鼓を叩く演奏者がその後ろに座る。そして、舞台の手前に4人が座る。この4人っていうのが、まあ儀式に呼ばれたゲストのようなものです。つまりダム建設の責任者がそのゲストとして舞台の手前に座った。そして龍の舞が始まり、踊りの最中でダム建設の責任者が殺害された」
「踊りの最中?」
「ええ。龍の舞を踊っていた演者が唐突に踊りを中断。舞台の手前に座っていた責任者に詰め寄って何度も斬りつけたのです」
そんなことがこの村で起きていたのか。
「犯行は大衆の面前で実行された。ね、異常でしょう?」
「ええ。とても、恐ろしいですね」
俺はそう言った後、ミルクティーを啜った。
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