第7話

「着きましたよ久遠さん。ここが私の行きつけの喫茶店でして」


 駐車場に車を停めて、俺と倉持は降りた。そして喫茶店に入店した。喫茶店内は至って普通の内装で、落ち着ける感じである。静かなジャス調のBGMが鳴り響いている。


 俺と倉持は店の一番隅の二人用の席に着いた。そして倉持はコーヒーを、俺はミルクティーを注文した。


「先ほどの話ですがね。実は村に長期滞在した人達の多くが、宏さんの様な自殺をしているんですよ」

「お父さんと同じ……?」


 俺はその事実を聞いた瞬間、やはりこの村には何かあるのだと確信した。


「ええ。宏さんの他に何人かの刑事がこの村で調査をしました。やがて調査を終えて帰宅した刑事達は、全員自殺したのです。しかも全員、死ぬ前の様子がおかしくなっていた。宏さんの様に、この村に帰りたい、帰りたいと呻くように言っていたそうです」

「それって、異常ですよね」

「ええ、異常です。調べてみると、宏さん含む刑事達だけでなく、他の人も自殺していることが分かりました。そして共通点が見つかったのです」

「それが、この村の長期滞在ですか……?」

「正確には、この村で長期滞在をし、その後村を長期間離れている、です。恐らくこの条件に当てはまった者が、不可解な自殺をしています」

「そんな……それじゃあ、この村から出られないじゃないですか」

「ええ。それが次の話に繋がってきます」

「次の話ですか?」


 俺が質問すると同時に、注文したコーヒーとミルクティが運ばれてきた。倉持はそのコーヒーに何も入れないまま一口啜った。


「久遠君は村の言い伝えについて、もう耳にしましたか」


 倉持はそんな切り口で話を再開した。


「いいえ。言い伝えなんてものがあるんですね」

「ええ。軽く説明しますとね……」


 倉持の説明は以下の様な感じだ。


 村付近にある山はかつて活火山だった。噴火を恐れた村人達は、龍にお願いして噴火を防いだ。龍は見返りとして毎月、一人分の人間の命を差し出せと要求した。村人達は最初は要求に応えていたが、やがて反故ほごにした。さらに龍の怒りを恐れた村人達は、龍を殺してしまった。すると村に次々と不幸が訪れるようになった。


「村に訪れる不幸を、龍の呪いというんですがね。それが、村から出られなくなる、という呪いみたいなんですよ」

「そんな……」


 つまり父は、龍の呪いによって死んでしまった、ということなのか。父だけでなく、村から出た刑事達全員が、呪いによって死んでしまった、と……。


「お父さんは、何について調査していたんですか?」

「村で立て続けに起きている不可解な事件ですよ」

「それは、龍の呪いとは別に、ですか」

「ええ。この村ではさらに奇妙で不気味な事件が起きています」


 倉持はコーヒーを啜った。同じタイミングで俺もミルクティーを一口飲んだ。


「この村では失踪事件が多発しています。神隠しを文字って ”龍隠し” と呼ばれているんですけどね」


 俺は倉持を見る。そして友人の相楽のことが脳裏を過った。


「それとは別に、この村はダム建設の為に村を沈める予定がありました。しかしその責任者がこの村で殺害されてしまいました。通称 ”龍の舞殺人事件” です。宏さん含む調査に向かった刑事達は、龍隠しと龍の舞殺人事件を調査しに来たのです」

「事件の詳細を教えてもらえますか」

「龍隠しの方は正直、情報が少なく何も言えません。なので龍の舞殺人事件の方を説明しましょう」


 と倉持が言ったところで、彼はハッとした表情を浮かべた。


「おっとすいません。これから別件で仕事がありますので、今日はここまでということで」

「わかりました。今日はありがとうございました」


 俺と倉持は立ち上がった。


「明日、この時間のこの場所で続きを話しましょう」

「はい。お願いします」

「それと、我々警察と話したことは他言無用でお願いします。これは久遠君のクラスメイトにも、です。特に崎守家と、龍堂りゅうどう家の人達」

「崎守家と龍堂家、ですか」

「その事も明日話します。良いですか。くれぐれも、ご内密に」


 倉持は俺の分の支払いを済ませて、車で去って行った。

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