第6話

「久遠君、おはようございますっ!」


 翌朝。校門を通り過ぎたタイミングで、崎守が挨拶をしてきた。


「おはよう、崎守」

「学校には慣れましたか? 何か困ったことはありますか?」


 朝から元気の良い崎守。


「いや、特には」

「でも聞きましたよ? 昨日の放課後、私を探していたのだとか」

「え、ああ。聞きたいことがあったんだ。というか崎守は昨日、すぐに帰っちゃったみたいだけど」

「ええ。ちょっと家の用事で、早く帰りたかったもので」


 そう答えた崎守は若干、慌てた様に見えた。


「なあ、崎守。ちょっと気になっているんだけど」

「はい、何でしょう?」

「その、同じクラスメイトなのに、敬語は止めない?」

「ああ、なるほど。でも私はこれが一番話し易いので。他の皆さんにも、こんな感じですし」


 そう言うと崎守はニコッと微笑む。美人が可愛らしく微笑んでくるものだから、男である俺は悪い気がしない。


「はは。話し易いなら、別、に……」


 俺は照れ隠しも含めて視線を逸らした。すると、その視線の先には女生徒がいた。引っ越しの日、エレベーターで一緒に乗り合わせた不気味な女性。


 同じクラスメイトでもある彼女の名は、龍堂りゅうどう みこと。クラス名簿で確認したから間違いない。


――我々警察と話したことは他言無用でお願いします。これは久遠君のクラスメイトにも、です。特に、崎守家と、龍堂家の人達。


 昨日、倉持の言葉から挙がった名前である。


「ところで久遠君」


 崎守の声で、俺は再度彼女に向いた。何だか、崎守の言葉が妙に冷たく感じたのだが、気のせいだろうか。


「昨日の放課後。久遠君は何をしていたのですか?」

「え、別に。何もしていないけど」


 俺は再度倉持のことを思い出して、内心ドキっとした。


「本当ですか? 例えば、誰かと話していませんでしたか?」


 妙に勘が良い。もしかして見られていたのだろうか。


「い、いや。昨日はそのまま家に帰ったし」


 俺は恐る恐る答えた。


「……」


 すると崎守は不自然に沈黙する。何だろう、嘘がばれたのか……?


「そうですか。ごめんなさい。特に他意はないんです。ただ何となく、昨日は寄り道せずに帰ったのかなって。ただの世間話です!」


 そう言って崎守は、ニコっと微笑んだ。


 そのまま崎守と一緒に学校内に入り、教室へ向かう。その道中で、何やら学校中が騒ぎになっていることに気がついた。


「なあ、何かあったのか」


 すれ違った男子生徒に俺は尋ねた。


「また一人、うちの学校の生徒が龍隠しに遭ったんだ」


 そう言って男子生徒は去って行った。


「また一人……? 相楽の他に誰かがいなくなったっていうのか」


 一体、この村で何が起きているんだ……?


「とりあえず教室に向かいましょう」


 崎守が言ったので、俺たちは足早に教室へ向かった。


 教室に入ると、やはり龍隠しに遭った生徒のことでざわついていた。


 立ち話をするクラスメイトや机を掻い潜って、自分の席へ着いた。


「龍隠しに遭った奴、林君だってさ」


 さっそく志田が話しかけてきた。俺はその言葉に、ショックを隠せない。


 志田は心なしか悲しげである。


「あまり、驚いていませんね」


 隣にいた崎守が言った。


「いや、ショックだよ。林が……マジか……」


 俺は心情を吐露した。


「いえ、そうではなく。引っ越し先の村で行方不明事件が頻繁に起きている。なかなか衝撃的な事実だと思うのですが。龍隠しって言葉も、知っていた様ですし」


 そして崎守は、先ほど一瞬だけ見せた冷徹な表情を浮かべる。


「もしかして昨日、誰かに聞いていたのですか」


 崎守は冷たい声で俺に尋ねた。妙に緊張感がある。俺は内心で狼狽えていた。


「ああ。このクラスに相楽って奴がいただろ。そいつ俺の友達だったんだ。行方不明って聞いたからな」


 俺はそう言って誤魔化した。嘘は言っていない。


「相楽君のご友人だったのですか! なるほど!」


 崎守は納得した様で、いつもの明るい雰囲気に戻った。


 しかし彼女への疑心は募るばかりだ。妙に俺の昨日の行動を気に掛けている様に見える。崎守家は倉持が言った姓でもあるので、注意が必要かも知れない。

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