第5話
中学生の頃。俺と相楽はまだ東京にいて、そして同じ学校に通っていた。その頃はまだ、俺と相楽は大して仲は良くなかった。
相楽は顔立ちが良かった。しかし真面目過ぎて、人付き合いは得意ではなかった。そんな彼はクラス委員長を務めていた。
ある日のこと。クラス委員長である彼は給食費を回収していた。ところが、その給食費を紛失してしまった。彼を良く思っていなかったクラスメイト達が、一斉に彼を叩き出した。
給食費の紛失は相楽の落ち度だ。真面目な性格も相まって、彼はその糾弾を甘んじて受入れた。
俺はそのことを、父に話した。
「相楽君は、給食費をいつもどうやって管理していたんだ?」
父が俺に問う。
「いつも自分の机に入れていたな」
俺は答えた。
「ふむ。パッと出てくる感じを見ると、本当にいつもそうなんだな。言うなれば習慣化しているのだろう。だとすると、紛失というのは些か考え難いんじゃないか?」
「どういうこと?」
「誰かが盗んだんじゃないかってことだよ。給食費を保管していた場所は、日継でもすぐに言えるくらいに知れ渡っている。誰でも給食費の場所を知っていて、盗めたってことだ」
「な、なるほど」
「なあ、日継」
父は俺の肩に手を添えた。
「その相楽君って子。結構責められているんじゃないか?」
「うん、まあ」
「なら助けられるのはお前しかいない。給食費は何故紛失したのか。そしてどこにあるのか。お前が真相を究明するんだ」
俺は嫌な顔をした。
「ええ、やだよ。面倒だし、俺がクラスメイトに嫌われちゃう」
「日継。学校でお前だけが給食費紛失に関する不自然さを知っているんだ。真相を究明すれば、人が救われる。お前しか、彼を救えないんだ」
父の言い分は分かる。納得も出来た。しかし、俺にはその自信が無かった。
「でも、俺には無理だよ。真相の究明なんて、やったこともないんだ」
項垂れる俺。やれやれ、と言った感じで父は笑った。
「大丈夫。お前は刑事と記者の息子だ。それにお前は頭が良い」
そして父は、こう言った。
「久遠家は無敵だ。お前なら出来る」
その翌日から、俺は給食費の行方を調査した。そして父の推理通り、クラスメイトの一人が盗んでいたことが判明。相楽に対する糾弾は収束した。
恐らく、俺と相楽が仲良くなったきっかけであった。
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