第4話
翌日の放課後。俺は調査を開始することにした。まずは聞き込み。崎守に聞くのが無難だろうと隣の席を見たが、彼女はもういなかった。
「どうかした? 久遠君」
キョロキョロしている俺を見かねて、前の席にいる志田が声を掛けてきた。
「ああいや。そうだ志田。聞きたいことがあるんだけど」
聞き込みは何人かにする予定だった。その予定には志田も含まれていたので、俺は彼女に聞くことにした。
「このクラスに相楽隆って奴いた?」
俺はまず行方不明になった友人について尋ねた。机に彼の痕跡があったので情報が出やすいだろうという想定である。
「えっ……?」
と志田は聞き返してきた。何だが不機嫌な表情を浮かべている。
「どうして久遠君からその名前が出てくるのよ」
と荒い語気で俺に言ってきた。普段の気さくな彼女とは真逆の反応である。
「ほら、ここに」
俺は先ほどの名前シールが貼られた箇所を指差した。志田は指の先を辿って、机の引き出しに張られたシールを見た。
「相楽は俺の友人なんだよ。それで気になって」
「ああ、そういうことね」
志田は表情を和らげた。どうやら普段の彼女に戻った様だ。
「相楽と連絡が取れなくなったんだ。あいつ、どうしたんだ?」
俺は志田に質問した。すると彼女は、悲しげな表情を浮かべる。
「去年、行方不明になっちゃったんだ」
母の情報と一致している。
「志田は、どうして行方不明になったと思う?」
「わからない。朝、先生から急に行方不明になったって伝えられたんだよ」
そして志田は俯いた顔を上げて、こちらを見つめてくる。
「久遠君を見ていると、隆を思い出すなあ」
「そう?」
「何だか、隆と同じ匂いがする、ような……」
「匂いって……。志田はもしかして、隆と仲が良かった?」
相楽のことを名前で呼んでいることも含めて、そんな憶測を述べてみる。
「……うん、まあね。私と奈緒と隆の三人で、よくつるんでいたよ」
なるほど。志田が先ほど不機嫌になった理由も何となく分かった。
「そっか。色々分かったよ。ありがとう」
「ふふ。またいつでも聞いてね」
俺は教室を後にした。
*
帰路の途中。歩道を歩きながら、空を見上げる。田舎の夕焼けは、東京で見るよりも美しく感じる。木々や田畑ばかりの場所で、カラスはカアカアと飛び交い、子供や大人がすれ違う。
そんな異世界とも言うべき空間を堪能していると、車が一台、俺の隣に停車した。そして運転席のパワーウィンドウが開かれた。
「久遠さんですか?」
中年のおじさんが窓縁から顔を出してきた。
「あなたは?」
「私はこういう者です」
おじさんが取り出したのは、警察手帳であった。そこには名前が記載されている。
「警察の方が、俺に何の用ですか」
「いえね。久遠さんのお父さんである久遠宏は刑事で、以前この村に調査に来たでしょ? その息子さんがこちらに引っ越して来たと聞きましてね。色々話を聞きたいなと」
好都合だと俺は思った。俺だって警察に聞きたいことがあったのだ。
「丁度良かった。俺も父の死について調査するために此処に来たんですよ」
俺はそう言いながら車に乗った。
「ほお。若いのに珍しい。それはご両親の教えによるものですかな?」
倉持に言われて、俺は目を瞑る。
「まあ、どちらかと言えば父の教えでしょうか」
俺はそう答えて、そして父とのことを思い出した。
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