第3話

 俺たちは教室を出ると、映像部の部室へ向かった。部室は視聴覚室らしい。そのドアをガラガラと開いた。


「おっすー。来たよー」

「こんにちは。また来ちゃいました」


 二人は軽く挨拶を済ませると、躊躇無く部室内へ入って行く。


 俺は視聴覚室入り口で、部室内を見渡す。視聴覚室は教室2部屋分の広さがある。部屋の一番前には黒板が設置してある。ブラウン管のテレビ2台が天井から吊されているのが特徴的だ。


 その空間内に、男女が3人程いた。


「この人は久遠君。転校生で、部活を見学したいってさ」


 志田が雑な説明をして、全員が注目した。


「そっか。見学は大歓迎だよ。僕ははやし 辰巳たつみ。映像部の部長だ。宜しく」


 と眼鏡を掛けた男子が言った。髪型は整っていて、顔のパーツもバランス良く配置されている。紛れもなくイケメンだ。ただ、そのイケメンも台無しになる程にニキビが多い。思春期は特にニキビが多く、彼はどうやらそのケアに苦戦しているみたいだ。


「私は東雲しののめ あずさです。宜しく」


 続いて、林の近くにいた女子が言った。彼女も同じく眼鏡を掛けている。髪は長くて、後ろ髪を三つ編みで結わえている。真面目で地味な女の子、といった感じだ。


「僕は東雲 隼人はやと。梓の弟です」


 梓の隣にいた男子が言った。彼は梓より背が小さい。林ほどイケメンではないが、彼はむしろ可愛いといった感じの印象だ。


「俺は久遠日継。宜しく」


 俺も軽く挨拶をした。


「映像部は今、どんなものを作っているんだ?」


 俺は皆に尋ねた。


「ミュージックビデオだよ。バンドを組んでいる友達が新曲を作ったみたいなんだ。その曲に合わせて流す映像を、作っている最中さ」


 と林が答えた。


「へえ、面白そう」


 と俺は素直な感想を言った。


「そうかい? 映像部は今人手不足なんだ。久遠君、入部してみない?」


 と林に勧められて、俺は考える。楽しそうだが、俺にはやるべきことがある。友人の失踪の究明。その調査は放課後にやろうと思っていたので、部活動は都合が悪い。


「ごめん。今日はただ活動が見たかっただけなんだ」


 と俺は勧誘を断った。


「そうか。まあ、気が向いたらいつでも声を掛けてくれ」


 見学に来た挙げ句、勧誘を断ってしまった。それでも林は、そんな風に優しく言ってくれた。


「じゃあ、私は帰りますね」


 崎守は唐突にそう告げた。


「何だよ奈緒。強引に来たくせに、もう帰っちゃうんだ」


 と気に食わない様子で志田は言った。


「ごめんなさい。今日は用事がありまして」


 と悪びれもなく崎守は言って、部室のドアの近くへ行った。


「では皆さん。また明日」


 ニコやかに手を振って、崎守は部室を出て行った。


「そうだ隼人。ビデオカメラの設置しないと」

「ビデオカメラの設置?」


 崎守が出て行った直後に、林が言った。俺はよく分からなくて、林に尋ねた。


「ああ。ミュージックビデオで、公園の一日の様子を倍速で再生するシーンを入れようと思ってね。そのために、近くにある公園にビデオカメラを設置しないといけないんだ。まさか、一日中ずっと立って撮るって訳にもいかないだろ?」

「ああ、なるほど」


 と俺は林の説明に納得した。倍速で風景が急速に移り変わっていくシーン。よくテレビで見る表現方法だ。


「ごめん。だからちょっと出かけなくちゃいけないんだ」

「そっか。じゃあ、俺も帰るとするよ」


 俺は先に部室を出た。

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