第2話

「東京から来ました。転校生の久遠くおん 日継ひつぎです。よろしくお願いします」


 転校初日。俺はクラスメイト達の前で頭を下げる。頭を持ち上げて周囲を見渡すと、俺はその人に気付いた。


 昨晩、エレベーターで乗り合わせた女性だ。腰まで伸びた長い黒髪はポニーテールで結わえられている。白のワンピースではなくて、高校の制服を着ている。やはり気のせいだったのか、肌は白いけど至って普通である。


 見てくれは昨晩と違うけれど、あの顔つきは間違いなく彼女だ。しかもそいつは、やはり昨晩と同じようにこちらを凝視して、不気味な笑顔を向けてきている。


 自己紹介を終えると、先生は一番後ろの窓際の席を指示した。幸いにも、その不気味な女生徒から離れた席である。


 俺はそこに向かうと着席した。すると、隣の席に座っている女生徒が声を掛けてきた。


「宜しくお願いします、久遠君。私は崎守さきもり 奈緒なおです。クラス委員長を務めています。なので困ったことがあれば、何でも言ってくださいね」


 そう言って崎守は微笑む。


「ありがとう。宜しく」


 と愛想良く言いながら崎守を見る。セミロングの黒髪。整っている顔。大きな胸。きちんと着ている制服。かなり美人な女性という印象だ。


「私は志田しだ りん。奈緒の友達だよ。宜しく!」


 続いて前の席の女生徒が言った。ショートカットの髪。メイクがきっちりと施されている顔。控えめな胸。着崩された制服。おちゃらけた印象が崎守と対象的である。


「うん。宜しく」


 だがまあ、悪そうな奴でもなさそうだ。むしろ気さくで仲良くなれそうな気さえする。


 俺は鞄から教科書やノートを取り出して、机にしまった。すると机の引き出しに、シールが貼られていることに気がついた。


「……相楽さがら たかし


 それは名前シールで、記されていたのは俺の友人。


 黒鱗村に帰省して行方不明になった、相楽の名前だった。



*



 放課後。志田がウキウキで立ち上がり、鞄を持った。


「何だか楽しそうだな」

「うん。分かる?」


 俺が聞くと、志田は嬉しそうに言った。


「これから部活なんだ」

「へえ。何部なんだ?」

「映像部。映画とかドラマとか、そういうのを作ってるんだ」


 意外なものに入っているものだと、俺は思った。志田は見た目がおちゃらけているから、何だか部活動に熱心になっている印象が持てない。


「良かったら一緒に来てみる?」


 部活動に励む志田を見てみたくて、俺は了承した。


「あら凜。私には誘ってくれないの」


 と崎守がイタズラっぽく言った。


「凜は一度見てるじゃん」

「ええー、私も行きたいですぅ」


 崎守が大げさに言った。崎守がこんなにもふざけているのが意外で、俺は思わず笑ってしまう。


「まあ、来たいなら来なよ」


 仕方ないな、といった感じで志田は言った。

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