第4話「5番目のスート兄弟」

「ああ……ジョーカーが怖いよ。心臓が壊れそうだ」


「怖い、ですか」


「きっとジョーカーは憎んでいる。悪霊になって本当に来たんだ。手が震えて捥げそうだ」


「あれだけのことをすれば、憎むでしょう」


「絶対そうだ。なんてことをした」


「本当に、なんてことをしてきたのでしょう」


「絶対そうだ。やめればよかった」


「そうですね、このような事にはならなかったでしょう」


「絶対そうだ。殺される」


「悪霊には殺されません」


「絶対そうだ。殺される」


「悪霊には、殺されません」



なにかが すっと飛んでいった

スート兄弟 安心築いて 気付かない


なにかは 壺に当たって落ちた

なにかは かつんと音たてた


クラブとハートは 音にびっくり びくついた



「悪霊だ! ジョーカーが来たぞ!」



クラブはパニック

ぐるぐる

慌てる



「私がいるので問題ありません」


「悪霊だ! ジョーカーが来たぞ!」



クラブはパニック

ぐるぐる

聞こえない



「落ち着いてください。落ち着かなければなりません」


「悪霊だ! ジョーカーが来たぞ!」


「クラブ。護身用の棍棒をください。私が守ります」


「ああ! ハート! 僕の兄弟!」


「ええ。私はスート兄弟です」



クラブは すすっと 渡したぞ

ハートは ささっと 手に持つぞ

クラブに ぐぐっと 刺しちゃった

貫かれた胴体 流れる血の涙 笑う笑うハート



「ハート、どうして、げっほごっほ」



まともに喋れない

まともに立てない

クラブは倒れちゃった



「貴方がジョーカーを殺したからですよ」


「まさか、おまえが、げっほごっほ」


「ジョーカーは私です」



笑う笑うハート

棍棒ぐりぐり

強く強く押すよ



「ぐぎゃあああああああああああああああああああ──」



泣く泣くクラブ

棍棒ぐりぐり 痛い痛い痛い痛い痛い



「ジョーカーは立派なスート兄弟です。兄弟の為ならば私は堕ちましょう。何も出来なかった──せめてもの行いです」



笑う笑うハート にやっと悪い顔

泣く泣くクラブ ぱったり逝っちゃった


血の匂いが広がった

動かない

ひやひや

ごろりと体


ハートは壁の剣を持ったとさ

クラブの首に振り落としたとさ

首無し人形の出来上がり



最後の祈りと目を瞑る

ぎろりと哀しい目を開く

徐に首を手に取った

そのまま抱えて行っちゃった




***




一晩経った 夜が明けた

スートはいなくなった


トランプの国にはスートがない

ジョーカーに殺されちゃった


届いた手紙は本当だった

ジョーカーはいたってことさ


だけど生き残ったよ1人だけ

あの子はジョーカーだったのだ


知っている人はいないけどね



ハートはハートじゃなくなった

スートは4つ必要だ

トランプの国には欠かせない


ハート

スペード

ダイヤ

クラブ


トランプの国は成り立たない

おっとジョーカーも忘れずに



それなら どうしたって

これなら どうだろうか

あの子が1人の王になって 1人のトランプになったのだ

あの子が1人で5役を担って 1人で52を率いたのさ



平和になったね

そうだね

これはしあわせな国



息を ぜっぜっ 吐いて

争い人 散っていって

スート兄弟 ばいばい

53番目がいるだけだって


そうさ

そうか

兄弟はいないんだって



だからあの子は会いに行くよ

あの子の宝物は誰も知らないよ


内緒内緒 地下の道

くらくら音する 石階段

よろよろ蝋燭 燃ゆる炎


人気のない 生花の部屋

並んだ 並んだ 棺4基


♤の棺 首一つ

♢の棺 首一つ

♧の棺 首一つ

♡の棺 骨一つ


あの子の宝物は誰も知らないよ

だからあの子は会いに来たよ



「ぼくを殺し切れなかった哀れな人達。もう直に、もう直に、ハートみたいに綺麗な骸になるからね。やっとでみんなで集まれたね」



あの子は笑う

兄弟を笑う

あの子を笑う



「ぼくはスートの座を奪うと言った。スートはぼくに任せてよ」



ハートはとっくの昔に死んでいた

ジョーカー庇って死んでいた


そう ジョーカーは生きていた。

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ジョーカー探し 世一杏奈 @Thanks_KM

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