第3話 消えた女の子
翌日の朝。
入れ替わって三日目になる。案外適応できている自分に驚いているが、相変わらず朝の怠さはどうにもできない。
入れ替わって特に何も変わらないことに正直がっかりしている。その前の記憶を持っていたら良いかもしれないがそれすら無い。
「恭介ー!」
振り返ると長髪の黒髪美少女がこっちに向かってやってきた。
ものすごいスピードで駆け寄ってくるのかと思ったら、威勢のいい声とは真反対で重い足を無理やり引きずりながら歩いているような気がする。姿勢は崩さず女の子らしさを残しているから、無意識にしているのだろう。
「恭介っ! 脚立から落ちたのってほんと?」
俺自身に追いついたと思いきや、発した第一声は二日前のアレのことを言ってきた。
「あれは俺の不注意だった。心配させてすまない」
「ふーん……そういえばさ」
なにか引っかかるのか、曖昧な返事だけをしてまた違う話題をだしてくる。それもまたどうでもいいようなことばかりで話したいだけの女の子だった。それは通学路のみならず、敷地内に入っても終わることはなく、最終的には教室に着くまで話は続くのだった。
名前と素性が分からない人と話すのはあまりにも精神的に辛い事がわかる。そんな事がわかってどうすれば良いのか。
「そういや、お前。同じ教室だったのな」
「ほんとに大丈夫? なんか雰囲気変わったし、前からあおいって呼んで欲しくて、やっとの思いで呼ばせたのにまたお前呼び」
「すまん……あおい」
「ならいいの。分かってくれれば」
そう言ってあおいは自分の席に吸い寄せられて、既にいたクラスメイトに話しかけ話に花を咲かせていた。
いつにも増して眠くなる4限目。船をこいでいたところに横から突かれる。
「なあ天波」
「またか。次はなんだ」
「各務原とまた喧嘩したのか?」
あおいの名字が各務原なのかもしれないと考え、話の流れを崩さないようにする。
こいつは渡瀬健一郎。ほとんど毎時間、授業中に話しかけてくるようだからこいつは仲がいいらしい。正直なところ鬱陶しいが退屈な授業を聞いているよりかはいい方だ。大体はどちらかが怒られ、話がとぎれて終わりということがほとんどみたいである。
「別に喧嘩はしてはいないけど」
「今朝、なんか地味に怒ってたじゃん? だから少し気になってさ。それはそれでおいといて、あいつこないよな」
「あいつ?」
「ほんとお前って周りに興味ないよな」
「別にそんなことないが。でも、たしかに気になるな」
当然、誰のことは分かってはいない。
「で、誰のことだ」
「あいつだよ。白銀明奈」
健一郎が言うには学年が上がって二週間、いつの間にかいなくなっていた彼女。連休明けにやってくると勝手に思っていたらしいが、流石に三週間程休んでいたら周りが意識しないはずもないだろう。
「とはいえ天波には興味ないか」
「そんなことはない」
「もしかして気になってるとか?」
「それはない」
俺がまるでそいつに対して好意を持っているように茶化してくるのを否定する。
「何があったかは知らねーけどよ、あんま関わらない方が良いって話もあるらしいぜ」
「どういうことだ?」
「それは知らない。直接聞いたわけじゃないからな。もしかしたら行方不明だったりしてな」
「物騒なこと言って本当だったらどうするんだよ」
俺たちはしばらくの間、色々と話題を変えながら話していたらしびれを切らした教師が渡瀬を中心に質問を投げ始めたところで話は終わった。
昼休みに入り、昨日のメモ用紙の事実を確認するべく、特別棟の理科室へ向かった。場所は聞かなくとも順番に一階から見ていけばすぐに見つかる。
到着したのは二階の突き当りの名前の通り理科室へ到着した。
扉に手をかけるも抵抗がなく鍵は掛かっていないようだった。
「北向きが分からん……」
謎の入れ替わりが会ったとはいえ、流石に土地勘はつかめていないため、九つある机の中から順番に見ていくことにした。
黒板から一番離れた列の真ん中の机の引出しには中身が入っていた。内容物はボールペンとなぜか数学の教科書が入っている。
「名前は白銀か……白銀?」
先ほど話題に出ていた白銀の所有物だということは馬鹿にでも分かる。だが、なぜ謎研の日誌に挟まっていたメモにこの在り処を示していたのかが謎だった。
ひとまず、中身を取り出して詩織のもとへ向かう。教室は俺のクラスの隣であるAクラスと言っていたから、そこまで迷うことはないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます