第1話 依頼

「ゴルド、行ったぞ!」

「ああ! 《鉄壁》!」

「私も! 《ガードアップ》!」


 ゴルドが《鉄壁》のスキルを使い、リレーナが《ガードアップ》の魔法で防御力を強化すると、ワイバーンのブレスを難なく弾いた。


「ミオナ!」

「ええ、《ライトニングボルト》!」


 ミオナの《ライトニングボルト》がワイバーンの頭上に落ち、麻痺と痙攣を引き起こす。


「行くぞっ! 炎龍剣エクス、星龍剣アーク!」


 両の手に握った、ドラゴンから作られた二振りの剣。


 脇に構え、空中を翔ける。


「《ソードスラッシュ》!」


 一回の攻撃で十回の斬撃を与える《ソードスラッシュ》。


 それが両方の剣から放たれ、二〇回の斬撃がワイバーンを抉り、息の根を止めた。




「ふぅ……アレト、回収を頼む」

「うんっ」


 アレトがワイバーンの残骸に駆け寄ると、手を添える。


「《ボックス》」


 次の瞬間、アレトの手の平に吸収されるように、ワイバーンの残骸は消えてなくなった。


 無限に収納出来る空間魔法ならではの回収方法だ。



「お疲れ、みんな。今日も怪我なく終えられたな」

「はんっ、今更ワイバーン程度」

「でも、最近張り合いのある依頼じゃないからつまらないわねぇ」

「何だか、不気味ですね……」



 確かに……ミオナとリレーナが言うように、最近は不気味なほど静かだ……。

 特にハンターギルドの上層部からの連絡もないから、杞憂だとは思うんだが……。


「……あっ、セト兄さん。あれ……!」

「ん?」


 アレトの見上げた先を見る。

 あれは……王族の飼っている白鷲じゃないか。



 何だか嫌な予感……。



 白鷲を腕に下ろし、脚に付いている手紙を取って再び飛ばす。


 刻印は……ゲッ、国王様……!

 他の人はいいが、国王様からのこう言った手紙は面倒事しかないんだよなぁ……。


 みんなの顔を見ると、頷き合う。


 いざっ。


 ぺら。


「……至急、王城へ来るべし……」


 …………。




「「「「うわあああああああああああああああああああああああ!?」」」」




 面倒くさい面倒くさい面倒くさい面倒くさい!

 ぜーーーーーーったいこれ面倒くさいヤツだよこれ!


「み、皆さん落ち着いて下さいっ。国王様から直々に依頼を受けるのです。これは、全ハンターの羨望の的! 栄誉な事ではないですか!」

「聖女さん……お前さんは神に仕える身だからそう思うのかもしれんがな……」

「そう思ってるのはあなただけよ、リレーナ……」


 うんうん。他の王族の方ならいいが、国王様直々の依頼はマジで面倒事が多すぎる。


 これは、今回も一筋縄じゃいかないぞ……。


「はぁ……仕方ない。ミオナ、王城へ転移してくれ」

「……了解よ」


 ミオナが転移の魔法を唱える。


 景色が一瞬で一変し、王城専用の転移部屋へ変わった。


 そこにいる一人の侍女。

 俺達が来ることを見越していたのか、無表情のまま腰を曲げる。


「お待ちしておりました、【千天万華】様。国王様がお待ちです」


「……はい……」


 ああ、これ、ガチなやつだ……。



 背筋はピシッと、心はダラける。



 無駄なことは考えず、死んだ魚のような目でひたすらに前だけ見る。


 侍女について行き、王城を歩く。

 ……何だか、城の中がきな臭いな。窓の外で兵士が走り回ってるし……これは、いよいよ戦争か?


「セト兄さん……」

「安心しろ、アレト。絶対守ってやるから」


 俺の手を握ってくるアレトの手を、優しく握り返す。

 それだけで、アレトの震えが若干治まった。

 俺だって緊張しないと言えば嘘になる。

 だが、アレトの前で俺がかっこ悪い姿を見せる訳にはいかないだろ?



 王城を進んでいく。と、一つの重厚な扉の前で立ち止まった。

 もう見慣れた、国王様と面会する謁見の間だ。


「陛下、【千天万華】の皆様をお連れ致しました」


「うむ、入れ」


 国王様の声が聞こえると、扉がゆっくりと開く。


 荘厳かつ豪華絢爛な謁見の間。

 その最奥、少し高い位置に国王様が玉座に座って、沈痛な面持ちで俺達を待っていた。


 長年国を支え、この国の頂点として君臨してきた、ルセンド・ヴァン・アルトニア国王陛下。

 その相貌に深く刻まれた皺は、見る者を圧倒する威厳がある。


 国王様の前に歩みを進め、誰からともなく膝をつく。


「国王陛下、【千天万華】、ただいま参上致しました」

「うむ。セトよ、息災か?」

「はっ。国王様におかれましても、ご健勝のこととお慶び申し上げます」


 こんな形式的な挨拶はいいから、さっさと要件を言ってくれよ……。


 内心毒づくが、国王様は難しい顔をして何も言わない。


「……陛下?」

「…………」


 陛下は俺達を順々に見ると、覚悟を決めたように頷く。


「……これから話すことは事実じゃ。そして落ち着いて聞いて欲しい。…………」


 国王様はたっぷり間を作り、そして。




「……勇者が目覚めた」




 ────。


 ……マジ、か……。


 勇者の復活。それが意味することは、この世界の誰もが知る共通認識。



 それは……魔王の復活。



 魔王に対抗出来うる力を持つ存在。


 それが勇者だ。


 つまり……魔王率いる、魔王軍と魔族との、全面戦争。


 この場にいる全員に緊張が走る。


 だが国王様の話しはこれからだ。


「そこで、【千天万華】に依頼じゃ」


「「「「「はっ……!」」」」」


 来た……!


 深々とこうべを垂れ、次の言葉を待つ。


「……勇者は目覚めて間もない。まだ力も上手く扱えておらん」


 ……それもそうだろう。魔王に対抗出来る力。そう易々と扱えるものでもないはずだ。


「そこでじゃ、お主らには勇者が力を使えるようになるまで、魔王軍を弱体化してもらいたい」


 弱体化……魔王軍の戦力を削ぐという意味だよな。

 それなら──。


「承知しました、国王様。指示を頂けますでしょうか」


「ならば、最初の敵は南──四天王クアラバッハの撃退じゃ」


「「「「「はっ!」」」」」


 …………。


 は? 四天王?

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